多年生雑草の本体見たり! 根っこ探検隊がゆく
巻頭特集
多年生雑草の本体見たり! 根っこ探検隊がゆく
NPO法人緑地雑草科学研究所・伊藤操子先生ほか
◆マークは本誌88ページに用語解説あり
◆マークのついた用語にマウスカーソルを合わせると、用語解説が表示されます(PC表示のみ)。
昨年発売され、好評につき重版中の『多年生雑草対策ハンドブック』(農文協)は、副題に「叩くべき本体は地下にある」と掲げている。著者の伊藤操子先生曰く、「◆多年生雑草の地上部、つまり私たちが見ている部分は、莫大な量の地下部に比べると、ほんの氷山の一角なんです」。
枯らしたはずが、刈り取ったはずが、いつの間にか復活している……そんな多年生雑草のしぶとさの秘密が、地下にあるというのだ。光合成でつくった栄養を地下部に蓄え、そこを栄養繁殖器官として再生するのだという。「せやから、地下部がどういう状態かをイメージして、地下部を弱らせる、枯らすような対処をしないと、効果は上がらないんです」。
なるほど。でも、地下部なんてイメージのしようがない。どうすれば……。「やっぱり、実際に掘ってみるのがいいと思います。農家の方たちと根っこを掘って見てみると、皆さん『こんなにすごいのか』って、とっても驚きはりますよ」。
さすが現場主義の先生。それなら、ぜひ掘りに行きましょう! こうして4月末、あいにくの雨模様の日だったが、多年生雑草の「根っこ探検隊」出動!とあいなった。メンバーは、誰よりもシャキシャキ動く伊藤先生、今回の調査地、福井県で活躍する雑草インストラクターの豊田さん、そして多年生雑草に困っている現地の農家、辻さん夫妻と編集部。まずは、小高い丘の大きな畦畔から探検開始。
さっそく「ありました」と、伊藤先生が声を上げた。カラムシだ。かつては繊維を利用する工芸作物として、盛んに栽培された植物だが、現在は雑草として各地に拡散し、畦畔や鉄道や道路脇などに群生。夏場には地上部がゆうに2mを超え、土地管理の障害となっている。
昨年の切り株跡の周り1×1mほどの範囲を、鍬などで丁寧に掘ることになった。根を傷付けずに掘るのは至難の業と思ったが、そこは経験者の豊田さんが率先。見る見るうちに土は除かれ、樹木のような地下部が姿を現わした――。
「うわ、こんなになってるんですね」と、驚きを超えて呆れ顔となったのは辻さんだった。伊藤先生も「こない立派な地下部、なかなか見られませんよ」と、興奮気味にスマホで写真を撮り始める。しかし、そこは専門家。すぐに切り替えて、解説。「勝手放題に伸びてるでしょ。こんなふうに不規則に伸びるのが、カラムシの地下部の特徴です」。素人目には根が絡まり合っているようにしか見えないのだが、このカラムシの地下部は「貯蔵根」と「◆根茎」とに分けられるのだという――。
この記事には続きがあります。本誌42〜55ページをぜひご覧ください!
多年生雑草を知り、上手に管理するための参考図書案内
『多年生雑草対策ハンドブック』
(伊藤操子著、税込2530円)
やっかいな雑草の本体は地下にあり。多年生雑草の特性と効果的な対策(草刈り、耕起、除草剤、防草シート、地被植物など)を平易に解説。草種ごとに地下部の貴重な写真とイラストを満載し、生態と管理法を具体的に示す。注文は巻末のハガキ、またはFAX注文書で。
「ルーラル電子図書館」
(会員制、年間税込2万6400円)
農文協運営、インターネット上のデータベース。名前や幼植物の写真から調べられる雑草図鑑、作物ごとの登録除草剤など詳細情報を収録。『現代農業』や『季刊地域』『農業技術大系』などの雑誌や事典類、ビデオなども見放題。
記事といっしょに 編集部取材ビデオ
[ことば解説]
多年生雑草(たねんせいざっそう)
2年を超えて生きのびる雑草のこと。宿根性雑草とも呼ばれる。
1年生や2年生の雑草と違う点として、栄養繁殖(自分のクローン、つまり分身をつくること)を重要な繁殖戦略としていること、地上部が枯死・喪失しても再生できることなどが挙げられる。
ギシギシやセイタカアワダチソウのように種子を残す仲間も多くおり、栄養繁殖と種子繁殖のどちらにウエイトを多くおくかは、草種により大きく異なる。
根茎(こんけい)
多年生雑草の地下部で、横や斜めに長く伸び広がるもののうち、形態的に「根」ではなく「茎」に分類されるもの。
地上の茎から葉を取り除き、横に倒したような器官で、地上の茎と同じように節があるのが特徴。節からはシュートになる腋芽(わき芽)や、節根という吸収根などが出る。根茎の先端には頂芽もついており、これもシュートになる。
耕起などでバラバラになったときに、それぞれの断片の節から再生して、個体数を増やすことができる草種も多い。
シュート
地下部から発生した地上部のこと。一つの芽に由来して発生した茎と葉を、一括して呼ぶ言葉。
著者紹介
伊藤操子(いとう・みさこ)
1941年、兵庫県生まれ。京都大学名誉教授。農学博士。専門は雑草学。同大学大学院農学研究科修士課程修了後、31年間、同大学で雑草学の研究・教育に従事し、樹園地・畑地・緑地などの雑草管理法の構築に努めた。日本雑草学会賞、日本農学賞を受賞。日本雑草学会会長など歴任。著書に『雑草学総論』(養賢堂)他多数。
『多年生雑草対策ハンドブック』
伊藤操子 著
やっかいな雑草の本体は地下にあり。多年草の特性と効果的な対策(草刈り、耕起、除草剤、防草シート、地被植物など)を平易に解説。草種ごとに地下部の貴重な写真とイラストを満載し、生態と管理法を具体的に示す