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多年生雑草の本体見たり! 根っこ探検隊がゆく

巻頭特集

多年生雑草を徹底捜査。 今回の対象は田んぼではなく、 畦畔や畑に巣食うやつらだ。
スギナ、セイタカアワダチソウ、 ヤブガラシ、クズ……。
切っても掘っても、 除草剤でもオダブツせず、 毎年春にはしれーっと顔を出して、 勝手放題シャバをのさばる。
やつらの資金源は、 地下にあるという噂だが――。

多年生雑草の本体見たり! 根っこ探検隊がゆく

NPO法人緑地雑草科学研究所・伊藤操子みさこ先生ほか

マークは本誌88ページに用語解説あり
マークのついた用語にマウスカーソルを合わせると、用語解説が表示されます(PC表示のみ)。

(とくに表記がない限り、写真は依田賢吾撮影)

 昨年発売され、好評につき重版中の『多年生雑草対策ハンドブック』(農文協)は、副題に「叩くべき本体は地下にある」と掲げている。著者の伊藤操子先生曰く、「多年生雑草の地上部、つまり私たちが見ている部分は、莫大な量の地下部に比べると、ほんの氷山の一角なんです」。

 枯らしたはずが、刈り取ったはずが、いつの間にか復活している……そんな多年生雑草のしぶとさの秘密が、地下にあるというのだ。光合成でつくった栄養を地下部に蓄え、そこを栄養繁殖器官として再生するのだという。「せやから、地下部がどういう状態かをイメージして、地下部を弱らせる、枯らすような対処をしないと、効果は上がらないんです」。

 なるほど。でも、地下部なんてイメージのしようがない。どうすれば……。「やっぱり、実際に掘ってみるのがいいと思います。農家の方たちと根っこを掘って見てみると、皆さん『こんなにすごいのか』って、とっても驚きはりますよ」。

 さすが現場主義の先生。それなら、ぜひ掘りに行きましょう! こうして4月末、あいにくの雨模様の日だったが、多年生雑草の「根っこ探検隊」出動!とあいなった。メンバーは、誰よりもシャキシャキ動く伊藤先生、今回の調査地、福井県で活躍する雑草インストラクターの豊田さん、そして多年生雑草に困っている現地の農家、辻さん夫妻と編集部。まずは、小高い丘の大きな畦畔から探検開始。

調査地(福井県大野市)の巨大な畦畔。草刈りが大変なうえ、ブロックローテーションを採用しているため、上の圃場が3年に1度転作している間は「水田畦畔」登録の除草剤が使えない
小畑竜三さん
今回の調査地を管理する大規模農家。イネ約40haの他、ソバや大麦などを栽培

 さっそく「ありました」と、伊藤先生が声を上げた。カラムシだ。かつては繊維を利用する工芸作物として、盛んに栽培された植物だが、現在は雑草として各地に拡散し、畦畔や鉄道や道路脇などに群生。夏場には地上部がゆうに2mを超え、土地管理の障害となっている。

カラムシの株跡(手前)。太い茎は、畦畔でひときわ目立つ
夏の同地点。カラムシの地上部に覆われ、畦畔管理がとても難しくなっている
(写真提供:伊藤操子、『多年生雑草対策ハンドブック』より)

 昨年の切り株跡の周り1×1mほどの範囲を、鍬などで丁寧に掘ることになった。根を傷付けずに掘るのは至難の業と思ったが、そこは経験者の豊田さんが率先。見る見るうちに土は除かれ、樹木のような地下部が姿を現わした――。

掘り取り作業。鍬やスコップ、ブロワーなどを使って、根の周りの土を取り除く
あらわになったカラムシの地下部。樹のように太い根っこに一同驚愕

「うわ、こんなになってるんですね」と、驚きを超えて呆れ顔となったのは辻さんだった。伊藤先生も「こない立派な地下部、なかなか見られませんよ」と、興奮気味にスマホで写真を撮り始める。しかし、そこは専門家。すぐに切り替えて、解説。「勝手放題に伸びてるでしょ。こんなふうに不規則に伸びるのが、カラムシの地下部の特徴です」。素人目には根が絡まり合っているようにしか見えないのだが、このカラムシの地下部は「貯蔵根」と「根茎」とに分けられるのだという――。

根茎から伸びていた◆シュート(地下部から発生した地上部のこと。一つの芽に由来して発生した茎と葉を、一括して呼ぶ言葉)。春から秋にかけて発生する

この記事には続きがあります。本誌42〜55ページをぜひご覧ください!


多年生雑草を知り、上手に管理するための参考図書案内

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記事といっしょに 編集部取材ビデオ


[ことば解説]

多年生雑草(たねんせいざっそう)
 2年を超えて生きのびる雑草のこと。宿根性雑草とも呼ばれる。
 1年生や2年生の雑草と違う点として、栄養繁殖(自分のクローン、つまり分身をつくること)を重要な繁殖戦略としていること、地上部が枯死・喪失しても再生できることなどが挙げられる。
 ギシギシやセイタカアワダチソウのように種子を残す仲間も多くおり、栄養繁殖と種子繁殖のどちらにウエイトを多くおくかは、草種により大きく異なる。
根茎(こんけい)
 多年生雑草の地下部で、横や斜めに長く伸び広がるもののうち、形態的に「根」ではなく「茎」に分類されるもの。
 地上の茎から葉を取り除き、横に倒したような器官で、地上の茎と同じように節があるのが特徴。節からはシュートになる腋芽(わき芽)や、節根という吸収根などが出る。根茎の先端には頂芽もついており、これもシュートになる。
 耕起などでバラバラになったときに、それぞれの断片の節から再生して、個体数を増やすことができる草種も多い。
シュート
 地下部から発生した地上部のこと。一つの芽に由来して発生した茎と葉を、一括して呼ぶ言葉。

著者紹介

伊藤操子(いとう・みさこ)

1941年、兵庫県生まれ。京都大学名誉教授。農学博士。専門は雑草学。同大学大学院農学研究科修士課程修了後、31年間、同大学で雑草学の研究・教育に従事し、樹園地・畑地・緑地などの雑草管理法の構築に努めた。日本雑草学会賞、日本農学賞を受賞。日本雑草学会会長など歴任。著書に『雑草学総論』(養賢堂)他多数。


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