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【今さら聞けない安い単肥の話】 石灰の話

現代農業2022年11月号の記事なかから、2023年3月号の巻頭特集「今さら聞けない pHと石灰の話」にあわせて読んでいただきたい記事を期間限定で公開します。ふだん目にするさまざまな石灰資材「消石灰」「炭カル」「苦土石灰」などの特徴もよくわかります。

硫安クン

肥料の値上げが止まらない今だから知っておきたい安い単肥のきほんのき。上手に使えば肥料代が減らせそうだ。石灰と苦土の「きほんのき」を、専門家たちに教えてもらった——。

石灰や苦土の肥料も「単肥」っていうの?

いいません。単肥と呼ぶのはチッソ・リン酸・カリの肥料だけです。

 前号(2022年10月号p94〜)のおさらいになるが、単肥と呼ぶのは、チッソ、リン酸、カリの三要素のうち1成分のみを含む肥料。石灰(カルシウム)や苦土(マグネシウム)の肥料は、それぞれ1成分のみであっても、単肥とは呼ばない。たんなる石灰肥料(石灰質肥料)、苦土肥料である。

 そう、記事のタイトルを「安い単肥の話」としておきながら、じつは今回は単肥の話ではないのだ。読者をダマすようなタイトルでゴメンナサイ。

 同じく、石灰や苦土を含む複数成分の肥料でも、三要素のうち2要素以上を含んでいなければ「複合肥料」という呼び方もしない。例えば石灰チッソは、石灰とチッソの複合肥料ではなく、チッソの単肥。過リン酸石灰(過石)もリン酸と石灰の複合肥料ではなく、リン酸単肥なのだ。

(編集部)

石灰肥料はどんな種類があるの?

主な石灰肥料は5種類。
藤原俊六郎
表1 代表的な石灰肥料の特徴
表1 代表的な石灰肥料の特徴
市販の石灰資材。形状も色もさまざま(松村昭宏撮影)
市販の石灰資材。形状も色もさまざま(松村昭宏撮影)

 石灰(カルシウム)は作物の細胞壁や細胞膜などの材料で、欠乏すると生理障害を起こしたり、病気にかかりやすくなったりします。チッソ・リン酸・カリを肥料の三大要素と呼びますが、それに石灰と苦土を加えて五大要素と呼ぶこともあります。作物にとって、それくらい重要な肥料です。酸性土壌の改良(pH矯正)にも欠かせませんね。いろいろな資材がありますが、その特性を表1にまとめてみました。

 生石灰は「石灰石」を高熱で焼いた肥料です。アルカリ分を80%以上も含み、速効性で反応が強く、土壌pHを急激に上昇させます。水と触れると発熱するため扱いに注意が必要で、あまりおすすめしません(p169)。

 消石灰生石灰に水を加えて化合した肥料です。アルカリ分は60%以上。同じく速効性で反応が強く、急激なpH改良に向きます。生石灰より扱いやすい肥料ですが、アルカリ分が強いので施用後、播種や定植までは2週間ほどおきましょう。

 炭カル(炭酸カルシウム)は、石灰石を細かく砕いたもの。緩効性で反応がゆっくりなため、緩やかな酸性改良や作物へのカルシウム供給に適しています。

 苦土炭カル(炭酸苦土石灰)は、マグネシウムを含む石灰石を細かく砕いたものです。やはり緩効性で、施用後の反応は穏やかです。葉緑素の元となるマグネシウムを含んでいるので、もっともおすすめの石灰資材です。

 「副産石灰」は廃棄物を活用した肥料で、「転炉さい」や「カキ殻」、「貝化石」などがあります。いずれも緩効性で反応は極めて穏やか。ミネラルを含むのが特徴です。カキ殻や貝化石は「有機石灰」として、有機農家が好んで使います。

 石灰チッソ過リン酸石灰熔リンも石灰を多く含みますが、先に紹介している通り、これらはチッソやリン酸の単肥です。詳しくは前号をご覧ください。

酸性土壌の改良に使うならどれ?

pHの矯正効果が高く扱いやすい、消石灰がおすすめです。
吉田吉明

 土壌をアルカリ化する力は生石灰が一番です。肥料の公定規格では、含有すべきアルカリ分の最小量を生石灰で80%、消石灰で60%、炭カルで50%としていますが、実際の商品にはそれぞれ80〜100%、60〜75%、50〜56%のアルカリ分が含まれています。土壌の酸性矯正力(pHを上げる力)はそのアルカリ分で評価しますが、生石灰を100(水溶液はpH12くらいになる)とすると、消石灰は75、炭カルは67くらいとなります。

 ただし石灰資材は他に、施用後の反応の早さや、保管や散布のしやすさも基準に選びます。速効性では生石灰消石灰炭カルの順となり、扱いやすさでは炭カル消石灰生石灰の順となります。生石灰は保管や散布がしづらいのがネックです。

 私のおすすめは、酸性矯正力が高く、保管もしやすい消石灰。顆粒状の商品や防散加工した商品もあり、散布もしやすくなっています。

うちはアルカリ土壌だから、石灰は使えないみたい。

過石や石膏なら大丈夫ですよ。
吉田吉明
硫安クン

 過リン酸石灰(過石)や石膏(硫酸カルシウム)なら土壌をアルカリ化せずに(pHを上げずに)、カルシウムを供給することができます。過石はリン酸の単肥という扱いですが、「副成分」として約60%の石膏を含み、土壌中で少しずつカルシウムと硫黄が溶け出してきます。

 硫黄を含むため、過石を溶かした水は酸性(pH2〜3)ですが、「生理的中性肥料」といって、土壌を酸性にもアルカリ性にもしません。アルカリ土壌でも安心して使えます。

 また、過石に含まれる石膏は「二水石膏(硫酸カルシウム二水和物)」という水に溶けやすい形態で多く含まれており、カルシウムと硫黄の供給源として有効です。もちろんリン酸も供給できます。過石は比較的安価で、国内の独自技術で作られる貴重な肥料です。

 ちなみに「リン酸石膏」という資材もありますが、じつはこれには、リン酸がほとんど含まれていません(0.5〜1.5%程度)。リン鉱石からリン酸を製造する際の副産物なのでこう呼ばれていますが、名前に騙されてはいけません。石灰の供給には有効ですが、リン酸効果も狙うなら過石を選びましょう。

生石灰は保管中に火がついちゃうんでしょ?

実際に火事になった例もあります。「濡らすな危険」ですよ。
吉田吉明

 生石灰は、石灰石を1000〜2000℃の高温で焼いてできた「酸化カルシウム」です。酸化カルシウムは水を加えると「水酸化カルシウム」(つまり消石灰)に変化、その過程で熱を発するのです。

 試しに生石灰に水を加えて放っておくと、ボコボコと沸騰してきます。生石灰の重さに対して水分が約32%で発熱量が最大になるといわれていて、数百度まで上がります。濡れた手で触ったり、目に入ったりすれば危険。すぐに洗い流しましょう。

 とはいっても、生石灰そのものが燃えるわけではありません。近くに可燃物があると発火することがあるのです。実際に火事が発生した事例も全国で多数あり、私も農協から相談されたことがあります。その農家は倉庫にイナワラを保管していて、近くに積んだ生石灰が濡れて引火してしまったようでした。生石灰は濡れるような場所に保管せず、可燃物の近くには置かない。倉庫の壁がベニヤ板などの場合も要注意です。

 なお、生石灰は消防法で危険物には該当しませんが、500kg以上保管する場合は、消防署へ届け出る必要があります。

肥料袋の保証票に書いてある「アルカリ分」って、石灰の含有量とは違うの?

違います。アルカリ分は石灰と苦土の合計。石灰含有量は計算できます。

 「アルカリ分」とは、土壌の酸性を中和する力を表わす値で、石灰はもちろん、アルカリ性肥料の苦土も含まれる。石灰肥料のほか、石灰チッソや熔リン、ケイカルなどの保証票に書いてあるはずだ。

 求め方は、アルカリ分=可溶性石灰(%)+可溶性苦土(%)×1.3914(係数)。例えば苦土石灰の保証票には「アルカリ分55% 可溶性苦土15%」とあり、石灰含有量は書いてないが、右の式に当てはめると、可溶性石灰が30%以上含まれていることがわかる。

(編集部)

最近の肥料袋には、石灰や硫黄の成分量も表示されるようになったの?

肥料法が改正されて、去年から保証票に記載できるようになりました。

 2019年に肥料取締法が改正、昨年12月から、肥料袋の「保証票」に記載できる成分が増えた。これまで、普通肥料の保証票に含有量を記載できる成分はチッソ、リン酸、カリ、アルカリ分、苦土、マンガン、ケイ酸、ホウ素の8成分のみで、それ以外の成分は、含有量がわかっていても記載できなかった。

 例えば過リン酸石灰の保証票に「保証成分量」として記載があるのは「可溶性リン酸17.5% うち水溶性リン酸14.5%」のみ。副成分として50〜60%の石膏(硫酸カルシウム)を含むので、石灰や硫黄も多量に入っているのだが、それらは記載されていなかったのだ。

 それが新たに「可溶性石灰」「ク溶性石灰」「水溶性石灰」「可溶性硫黄」が記載できるようになり、副成分の含有量までわかるようになった。農水省によると、その背景には、水田の硫黄不足などがあるという。

 農家にとっては、朗報である。記載が義務化されたわけではなく、表示するには登録を取り直す手間もある。メーカーにはご面倒だが、ぜひ、石灰や硫黄の成分量まで記載してほしい。

(編集部)

*月刊『現代農業』2022年11月号(原題:石灰の話)より。情報は掲載時のものです。

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