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【ベテラン土壌肥料研究者からのメッセージ】 肥料を上手に使うためにpHとECによる簡易診断を

現代農業2018年10月号の記事なかから、2023年3月号の巻頭特集「今さら聞けない pHと石灰の話」にあわせて読んでいただきたい記事を期間限定で公開します。露地畑の土と施設内の土の違い、pHとECの簡易診断の見方などがよくわかります。

加藤哲郎(元東京都農総研、元金沢学院短期大学教授)

メーター

――ひと昔前までは、肥料をやるのは作物の栄養のためで、作物が吸収する分をやればいいと単純に考えても大きな問題はなかったのですが、今ではそう簡単ではありません。施設栽培やトンネル、マルチなど雨が入らないために肥料分が蓄積していく土壌が増え、あるいは堆肥といっても肥料分の多い家畜糞尿を使ったものが多く、それも勘案して施肥する必要が出てきました。「化学性」の面から、土とのつき合い方を考えてみましょう。

本来なら「省肥」でいける施設土壌

露地畑の土と施設内の土の違い

 施設栽培の土壌は、ガラスやビニール被覆などで、露地とは環境条件が異なるため、特有の特徴を持っています。(1)施設内は人為的に温度管理ができて、(2)雨水が入らないため、(3)土壌は乾燥気味になりやすく、(4)塩類集積が起こる可能性が高い、ことです。また、設備費が高いため、高収入となる花卉や野菜の連作を行なうことが多く、(5)連作障害の起きやすい条件もそろっています。

 施設土壌では降雨の影響がなく、作物に必要なかん水だけでは、施肥養分の下層への溶脱は少なくなります。一方、施設では暖かい状態で栽培され、土壌表面から水の蒸散が活発に行なわれます。そのため、各種の物質を溶かした水が下層から上層に移行しやすくなり、水に溶けた硝酸イオンや硫酸イオン(どちらも陰イオン)、およびカルシウムイオンやカリウムイオン(どちらも陽イオン)などが地表面に集積します。

 それら陰イオンと陽イオンが結合して「塩」ができ、乾燥化すると白く表面を覆うように集積してきます。世界の乾燥地では、水分の上昇とともに塩類が集積し一面真っ白な土地がありますが、そのしくみは同じです。

 施設栽培では高い生産性を求め、狭い面積に肥料や土壌改良資材、有機質をどうしても多量に施用し、塩類集積を促進する結果となります。閉鎖系で発生した物質も残りやすく、たとえば、アンモニアガスや亜硝酸ガスが発生して農作物に障害を起こすことがあります。

 前章で紹介した土壌の「粉状化」も起きやすく、耕盤も形成されます。

 耕盤形成による問題点としては、(1)耕盤から下に根が伸びなくなる、(2)耕盤の上部に肥料成分が蓄積し作物根に障害を及ぼす恐れがある、(3)かん水しても耕盤上部で水分が留まり過湿になる、(4)土壌の乾燥時に下層からの水分補給がなくなる、(5)塩類が「地表部分」だけではなく耕盤近くにも集積する、などがあります。

 本来、露地よりも施肥量が少なくてもよいのが施設の利点です。「省肥栽培」が可能であるのに、そのメリットがあまり生かされていない状況があります。

塩類集積への対策

 塩類の富化や集積への対策ですが、蓄積した過剰成分の除去は容易ではありません。そのため、まず化学肥料の減肥をはかります。また、水利条件のよい場所では、栽培しない期間に湛水除塩を行なうと、土壌中の肥料分は減ります。しかし、湛水除塩は「地下水汚染」や「乾燥後の再集積」などの問題もあり、周辺状況や土壌条件などを考慮する必要があります。ビニールハウスでは冬期間に被覆をはずし、降雪水にあてることも行なわれています。

 塩類集積に対するそのほかの対策としては、(1)クリーニングクロップの利用、(2)深耕、(3)有機物施用、(4)客土などがあります。クリーニングクロップは、主にイネ科牧草等によって養分を吸収させます。深耕は、下層との混合で養分を薄められますが、下層に礫が多かったり、泥炭層等があったりする場合は、生産力を低下させる恐れがあります。

 有機物施用では、塩類濃度の高い家畜糞由来の有機物の施用は避けて、植物質堆肥が向いています。植物質の有機物の施用は、土壌の粉状化や緻密化の防止など、物理性の改良にも役立ちます(表Ⅲ―1)。

表Ⅲ-1 施設栽培でのいくつかの問題点への対策や注意点(例)
表Ⅲ-1 施設栽培でのいくつかの問題点への対策や注意点(例)

pHとECによる簡易診断

pHとは? ECとは?

 土壌の物理性の診断について、安西さんは「40cmの穴掘り」をすすめていますが、化学性ではpHとECの簡易診断がおすすめ。これだけでかなりの判断ができます。

 pHは土壌の化学性を表わす最も基本的なものの一つで、土壌の水溶液中の水素イオン濃度で示され、石灰など塩基の量で左右されます。

 作物によって好むpHがありますが、一般的には5.5~7.0が適正領域とされ、4.5以下(強酸性)、8.0以上(強アルカリ性)では、農作物の栽培には適しません。

 ミネラルなど各要素の溶け方はpHの影響をうけ、pH5.5~6.5でほとんどの養分が効きやすく、通常、これぐらいが適正になります。これ以上高いアルカリでは鉄やマンガンが溶けにくくなり、酸性ではモリブデンなどが溶けにくくなり、欠乏の心配が出てきます。

 EC(Electrical Conductivity)とは電気伝導率のことで、溶液中のイオン濃度を示します。単位はdS/m(デシジーメンス/メートル)で表わします。昔はmS/cm(ミリジーメンス/センチメートル)で表わしていましたが、これは表現が異なるだけで同じ数値を示します。

 ECは土壌からとった抽出液を調べます。イオンの総量が多くなると、電極間を流れる電気は多くなり、イオンの量が多いほどECの値も高くなります。ただしEC 値はあくまでもイオン全体の数値であり、どの養分イオンがその数値を示しているのかはわかりません。

 ECの適正値は0.4~1.0とされ、主にはチッソ施用量の判断に使われます。

 pHとECの両方を見たほうがいいのは、pHが硝酸(チッソ)などの陰イオンの量にも影響されるからです。EC値が高い場合は普通は硝酸によることが多いのですが、硝酸が多いと石灰などが多くてもpHの値が低くなり、この場合は、石灰をやるよりチッソの施用量を減らしたほうがよいことになります。

pHとECで4タイプそれぞれの特徴

表Ⅲ-2 酸性土壌の簡単な見分け方(例)
表Ⅲ-2 酸性土壌の簡単な見分け方(例)

 pHとECを組み合わせると、図Ⅲ―1のように4タイプになります。それぞれの特徴は以下のようです。

(1)高pH・高EC型土壌

 pHが7以上、ECが1以上の土壌で、肥料成分がすべてにわたって過剰に蓄積しています。キュウリ連作畑などに多く見られます。作物は濃緑色となり、草丈が伸びません。果菜類では花落ちし、着果不良となります。根は伸びず、コルク化している場合もあります。土壌改良資材や肥料を多量施用した圃場にも多く見られ、全体的に減肥が必要です。そのような施設でしっかり収穫するために、多かん水栽培で肥料分を薄め、根の発育不良を補って栽培していることが多いようです。

(2)低pH・高EC型土壌

 pHが5.5以下、ECが1以上でキュウリ・トマトの栽培体系の畑に多く見られます。pH低下の原因は必ずしも塩基成分の不足ではなく、硝酸や硫酸のような陰イオンの蓄積によるもので、そのため、EC値が高くなっています。作物は黒みを帯び、草丈は伸びずいじけた生育となります。根は伸びず、コルク化している場合が多く見られます。チッソ肥料を多量施用している圃場で多く、多かん水栽培をしている場合によく見られます。

(3)高pH・低EC型土壌

 pHが7以上、ECが0.4以下、塩基成分は多いがチッソ肥料は少ない状態です。メロンやイチゴ栽培畑などで見られます。作物は黄緑色化し、ひ弱な生育となります。高pHにより、各種の微量要素が欠乏を生じやすくなります。未熟有機物の施用によってチッソの有機化、微生物によるチッソの取り込みが起こっている場合にも見られます。一般にチッソ肥料が少ないため標準施肥を行なうようにします。

(4)低pH・低EC型土壌

 pHが5.5以下、ECが0.4以下で、全体に肥料成分が不足しています。作物の葉色は淡く黄色みが強くなります。この型の土壌は施設栽培ではきわめてまれです。肥料が多い場合は土壌から取り出すことは無理ですが、少ない場合は足すことによって改良が可能です。やりすぎに注意し、適pH適ECで安定させたいものです。

 なお、pHなどを数値として測定する方法には、大きく分けてpHメーター、簡易のpH比色測定器、pH試験紙によるものがあります。pHメーターは、数千円の簡易型(ポケットタイプ、カーデー型など)のものもあります。ECメーターも簡易型では、数千円程度で入手できます。

 酸性土壌の簡単な見分け方や測定法の例を表Ⅲ―2に示しました。

表Ⅲ-2 酸性土壌の簡単な見分け方(例)
表Ⅲ-2 酸性土壌の簡単な見分け方(例)

*月刊『現代農業』2022年1月号(原題:メッセージ3 肥料を上手に使うためにpHとECによる簡易診断を)より。情報は掲載時のものです。

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