新潟県佐渡市在住で、環境アドバイザーとして、稲作を指導しながら生きもの調査を担当している服部謙次氏による連載。服部さん独自の見方や地域でのエピソードを盛り込みながら、生きものたちの魅力ある姿をご紹介いただきます。
執筆者:服部謙次(新潟県佐渡市)。元農業普及指導員
『現代農業』2025年11月号「ミズカマキリ」より
カマキリのように細長い体と鎌のような前脚をもちながら、水中を泳ぐ虫、ミズカマキリ。じつにわかりやすい名前だ。しかし、実際にはカマキリの仲間ではなく、タガメやタイコウチと同じくカメムシの仲間。肉食で、鎌形の脚で素早く獲物を捕らえて食べる。ただし、カマキリのようにかぶりつくのではなく、針状の口で刺して消化液を流し込んで吸い取る。
個性的な姿で目を引くので、生きもの調査でも子どもにも人気がある。おしりに呼吸管とよばれる長い管があり、この先をシュノーケルのように水上に上げて呼吸できるので、常に水中に潜っていられる。長い毛が密に生えた中脚と後脚で水をかいて泳ぐが、その動きはあまり速くはなく、獲物はじっと待ち伏せして捕まえる。
ミズカマキリはため池と田んぼを行き来しながら生活しており、春になると池から飛び出して、水が入った田んぼに移動。水中で交尾し、アゼに上陸して湿った泥やコケの中に産卵する。
卵から孵った幼虫はすぐに田んぼで水中生活を始め、ミジンコやユスリカの幼虫などを食べて成長する。田植え後の水田は、池と違ってミジンコなどが爆発的に増え、外敵も少ないので、幼虫が育つのにうってつけだ。わざわざ池から大移動するのはこのためだろう。幼虫は孵化後40日ほどで成虫になる。成長するとオタマジャクシやヤゴなども盛んに捕食するようになり、成虫になると翅ができて高い飛翔力を持つ。田んぼから水がなくなると、ため池に戻り、水に潜って冬越しする。
残念ながら、年々数が減っている。農薬の影響もありそうだが、ため池や土水路などの水辺の環境が田んぼ周辺からどんどん失われていることも大きいだろう。ミズカマキリの存在は、豊かな里山環境が残されている証拠にもなる。米の収量が低い田んぼでも、ミズカマキリが多くいるなら、ちょっとくらい自慢してみてほしい。
月刊『現代農業』の連載では、以下の生きものが登場します。ぜひ、本誌または「ルーラル電子図書館」でご覧下さい。
【連載】いるとうれしい! 田んぼの生きもの図鑑
- ガムシ
- マツモムシ
- コモリグモ
- ニホンアマガエル
- ウスバキトンボ
- スズメ
- ミズカマキリ
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