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夏秋トマトで環境制御が始まった!

大分県竹田市・JAおおいた豊肥事業部トマト部会

マークは文末に用語解説あり
右から田平真樹さん、お父さんの茂博さん、部会長の後藤敬三さん、普及指導員の西川志代さん。頭上には遮光のため「保温カーテン」を張っている

 「環境制御」といえば、冬場の技術。そんな印象が強いが、じつは最近、その考え方を取り入れる夏秋栽培の産地が出てきた。各地を指導しているのは、(株)デルフィージャパンの斉藤章さん(元(株)誠和、p136参照)。「オランダ農業の伝道師」として、本誌で何度も記事を書いてもらったあの人だ。

 取り組みはまだ始まったばかりだが、すでに結果も出てきたという。斉藤さんが昨年から指導を始めた、JAおおいたのトマト部会を訪ねた––。

青年部が先鞭をつける

「葉がみずみずしいですね。かなりいい状態じゃないですか?」

 ハウスまで案内してくれたのは、大分県豊肥ほうひ振興局の西川志代さん。斉藤さんの勉強会をコーディネートする普及員(農業普及指導員)さんだ。

「そうねー。今年は葉がしなやかって感じはありますね」

 と、まんざらでもなさそうなのは、ハウスの主の田平真樹さん(40歳)。耐候性ハウス60aと雨よけハウス20aで夏秋トマトを栽培し、青年部の代表を務める若手のリーダー格である。

 JAおおいた豊肥事業部トマト部会は、現在74人。標高400〜500mで昼夜の寒暖差が大きく、甘いトマトが育つ。果皮が赤くなってから収穫する「赤採りトマト」は、県がブランド化を進めている逸品だ。

 竹田市といえば「とまと学校」も有名。担い手不足解消のため2010年に開校したトマト専門の育成機関で、現在は「竹田市ファーマーズスクール」と名前を変えて、就農希望者をベテラン農家が鍛え上げている。

 部会長の後藤敬三さん(61歳)によれば、近年、その卒業生が就農して部会に若手が増えてきた。そこで昨年、青年部を新たに立ち上げ、その初代代表に田平さんが就いた。集まった若手から、せっかくだから一緒に勉強したいと声が上がり、そのテーマに選ばれたのが環境制御だったというわけだ。

 昨年から始めた斉藤さんを呼んでの勉強会は月に1度。現在の参加者は若手7人で、部会長らベテランは、彼らから内容を伝え聞くのみ。「まずは若いのに勉強してほしい。そこから部会全体に広げよう」との方針なんだとか。

保温カーテンで遮光!?

 それにしても、環境制御の技術が夏秋栽培で生かせるのだろうか。なんせ暑くて日射量の多い時期である。ハウスは開けっぱなしで、冬場のように暖房を焚いたり、CO2を施用するなど、中の環境をコントロールする余地なんてなさそうだ。

「僕もそう思ってたんですが、毎回いろいろアドバイスされる。やることが、けっこうあるんですよ」

 という田平さんの頭上には、遮光カーテンが広げてある(p130写真)。これも昨年から始めたそうで、聞けば遮光用ではなく、春先に使っていた保温カーテン(PO)なんだとか。

「保温用だから、遮光に使えるとは思ってなかった。目からウロコですよ。張っておくと、確かに少し違うみたいで、例えば今日も萎れが出てない。昨日まで天気が悪くて今朝から急に晴れたので、今までなら葉先が萎れるパターンだけど、今年はそれがない」

 保温用といっても、サイドを開け放てば、ハウスが暑くなることはない。逆に少し涼しくなって、作業する人にとっても助かるそうだ。

 以前なら基本的に、保温カーテンは春先と秋以降の夜間に使うだけ。それ以外の時は畳んでいたものだ。それが遮光カーテンとして使えるなら儲けものである。

幼いトマトには光が多すぎ!?

 そもそも田平さんにとっては、春に遮光が必要ということ自体も驚きだったという。確かに、まだそこまで暑くないし、トマトは光を好む作物だ。「でも斉藤さんにいわせると、トマトがまだ小さいうちは、この光が強すぎるらしいんですよ。今年は定植直後からずっとカーテンを張っています」

 ちなみに昨年は遮光資材(レディヒート)をハウスに塗布したが、高いし作業が大変だったので、今年はやめた。ただ保温カーテンでは遮光率がそこまで高くないそうで、今作も頑張って遮光資材を使っている仲間もいるそうだ。

田平さんの品種はみそら64(5月31日撮影)。4月1日に定植して6月中旬に収穫開始、最後は暖房を焚いて、翌年1月中旬まで出し続ける夏越し長期どり栽培

かん水量は3倍以上

冒頭で褒められていた葉のみずみずしさも、遮光のおかげなんだろうか。「去年からかん水量も増やしています。今年はたぶん、2年前の約3倍です」

3倍とはすごい。田平さんにとっても、かなりの挑戦だったようだ。

多くのトマト農家は、生育初期に水を控える。最初に水をやりすぎると栄養生長に傾いて、果実が肥大しにくくなってしまう。水が多ければ樹が暴れ、かといって絞りすぎれば生殖生長に傾いて大きくならない。定植直後のかん水は、そのバランスをとりながら、絶妙なさじ加減を必要とするトマト農家の名人芸だったはずだ。

そのかん水量を3倍に増やすなんて、以前は考えられなかったという。でも確かに、水をやったトマトは葉が青々として、ツヤが出た。以前は作業中にぶつかってポキポキ折れたりしたが、最近はそれもないという。

「前はハウス内が常に乾燥気味で、葉は白っぽかった。まだ半信半疑だけど、かん水を増やした効果は感じています」

ただし、若手農家のかん水量をチェックする西川さんによれば、田平さんのかん水量は、斉藤さんが必要とした量には達していない。まだまだ増やせるそうだ。

環境測定機器「はかる蔵」(リバティーポートジャパン)。温度や湿度、日射量、CO2濃度、地温が測れ、オプションで土壌水分やEC、外気温の測定が可能。データをスマホで見られ、仲間と共有もできる。緊急時の通知もあり。開発者は県内のイチゴ農家で、要望への対応が早いのが魅力。約20万円

まだ若い葉を落とす!?

斉藤さんによると、生育初期といえど、かん水を絞るのはトマトにとって大きなストレスらしい。しかし、かん水量をただ増やすだけでは、樹が暴れてしまう。そこで同時に教わったのが、積極的な葉かきである。

「今までは、第1果房を収穫中に、その下の葉を一気にとっていました。その頃はもう下葉が老化し始めているし、作業の邪魔になるので」

それが今は、・・・

−この記事の続きは2022年8月号をご覧ください−

現代農業2022年8月号
2022年8月号

ことば解説

 ハウス内の温度や湿度、光、炭酸ガス、養水分などを調節し、作物の生育に最適な環境にする技術。オランダ由来の新しい栽培方法を指すことが多い。一番の目的は、光合成量を最大にすることで、収量の「限界突破」を期待できる。

 作物が葉や茎、根などの栄養器官の生長に傾くこと。

 作物が花芽や果実などの生殖器官の生長に傾くこと。

 光合成をあまりせず、作物の生育に役立たない古い葉を取り除くこと。古い葉でなくても、風通しや日当たりをよくするために葉かきすることもある。

最新 夏秋トマト・ミニトマト栽培マニュアル

後藤敏美 著

 『新版夏秋トマト栽培マニュアル』から6年ぶりの改訂版。課題の気候変動への対応を踏まえ栽培管理を1から見直すとともに、茎葉・果実の各種障害、病害虫対策などを充実、さらに高温対策や簡易雨除け栽培の章やミニトマト栽培のコーナーも新しく増補した。
 また、横長スマホサイズのフレームに1項目を納め、そこに写真や図とともに簡潔な解説を入れて構成するスタイルを採用(1ページで3項目収録)。写真、解説をスマホに納め、現地でも使える本に。

環境制御のための植物生理

エペ・フゥーヴェリンク他 著/中野明正 監訳

オランダの施設園芸生産者向けテキストの日本語版。多収に欠かせない環境制御技術の根拠となる植物の生理を解説。植物生理の基礎から、地上部の環境制御、地下部の環境制御、病害予防まで。果菜・花卉農家待望の書。

トマトの長期多段どり栽培

吉田剛 著

トマトのハウス栽培のなかでも大きく稼げるのが長期多段どり栽培。長期戦を勝ち取る舵取りのコツは生育の診断と手当て。手当ては肥料でなく、24時間平均温度管理や昼夜の日較差などの環境制御で行なう。

ハウスの環境制御ガイドブック

斉藤章 著

世界の施設園芸をリードするオランダの最新技術を日本の農家向けに噛み砕いて解説。オランダの超多収技術を支える環境制御とはどういうものなのか、増収のしくみとそのやり方が手順を追ってわかる。農家の事例が随所にちりばめられているので実用度が高い。実際に農家から発せられた30を超える質問に著者が回答する「よくある質問 環境制御Q&A」も収録。理解をより深めることができる。環境計測機器の一覧、環境制御関連機器メーカーの一覧付き。

TOMATOES 2nd Edition トマト 100トンどりの新技術と理論

エペ・フゥーヴェリンク 編著/中野明正・東出忠桐・松田怜 監訳

生食用トマトや加工用トマトがどこでどのくらいつくられているかがわかる「世界のトマト生産」から、新品種が短期間で育成できる「ゲノム育種」、施設園芸先進国オランダの「環境制御による超多収技術」、人にも環境にもやさしい「総合的病害虫防除」、海外における「有機栽培の現状」、「鮮度保持流通」まで、トマト栽培の最先端がまるごとわかる一冊。