いま、イネカメムシが約70年ぶりに大発生しています。ときにイネに壊滅的な減収をもたらします。出穂期の田んぼに飛来して繁殖し、出穂の早い圃場から順に渡り歩きながら、やがて越冬地へ去っていきます。その生態はいまだ謎に包まれています。
執筆者:古谷愛子(NPO法人オリザネット)
『現代農業』2026年6月号「イネカメムシの足取りを徹底追跡!」より
「越冬地から直接飛来」は本当か
2024年、栃木県南部や埼玉県東部などではイネカメムシの被害が深刻だった。米の収量が半分になるのも珍しくなく、ほとんど収穫できない所もあった。
私たちオリザネットは、予防的措置、判断、防除にもとづく総合的病害虫・雑草管理(IPM)の観点から、現地調査や飼育観察を通してこの虫の動向を追いかけてきた。
これまでイネカメムシは「越冬地から直接出穂時の水田に飛来する」といわれていた。しかし、イネの出穂は7月以降。春になれば気温は高くなる。何カ月も何も食べず、同じ場所にじっと動かずにいることなんてできるのだろうか。
越冬していたイネカメムシが水田に飛来するまで、どこで何をしているのか。どうしても知りたかった。
リュウノヒゲの中で増えたり減ったり!?
2025年5月1日、埼玉県北本市の水田地帯から約300m離れた木立の多い場所のリュウノヒゲ(キジカクシ科の多年草、ジャノヒゲとも)4.7m2内でイネカメムシの集団を見つけた。
5月18日夜、葉をがさがさすると、下のほうから湧き出るようにイネカメムシが出てきた。彼らは葉の上まで登ってくると、次々にブーンと元気よく飛んでいった。5月23日夕方に確認すると、去っていった個体が多かったのか、数がかなり減少しているように感じた。
ところが5月25日夜、あれ、今度は増えてる? ダブルカウントを避けるため、捕まえては赤マジックで印をつけて放す、を繰り返した。数えると327匹。イネカメムシを押さえた指先は茶色に染まった(カメムシやけどという)。
5月28日、赤印がないイネカメムシが多くいた。そして、また増えてる? 無印の個体に、今度は緑色の印をつけながら数えたら、新規個体だけで521匹。どこからか、移動してきているようだ(上写真)。
6月6日、赤印、緑印の他に、やはり無印のイネカメムシがいる。新たな196個体には、白色で印をつけた。そして6月下旬になると、数はどんどん減っていき、7月17日にはついに5個体だけになった。
越冬後の「潜伏地」がある
イネカメムシは、いったいどこから来て、どこへ行ったのか。
そのヒントになる調査を、埼玉県植物防疫協会の江村薫さんが25年1~5月に実施していた。埼玉県加須市の木立の落ち葉の下で越冬イネカメムシの生息数を調べたもので、1月12日に1m2当たり225個体いたイネカメムシが、3月23日に66.7個体、4月13日に29.6個体とだんだん減っていき、5月中旬にはまったくいなくなったという。
ところで、江村さんが見ていた木立の落ち葉の下は、確かにイネカメムシの越冬場所だったと思うが、私たちが見ていたリュウノヒゲは越冬場所なのか? 吸汁もできるエサがあり、前述のとおり5月以降に出入りが激しい。単なる越冬場所というより、本格始動前の「潜伏地」と呼んだほうがいいのではないか。
イネ科雑草地での繁殖
次に、私たちは「雑草地」に注目した。北本市の調査でリュウノヒゲ内のイネカメムシの数が相当減ってきた6月24日、そこから400m離れた雑草地のメヒシバ、イヌビエ、ネズミムギで吸汁している複数のイネカメムシを見た。
6月27日、栃木県小山市の農道脇のセイバンモロコシ群落で多数のイネカメムシを確認した。
7月3日、埼玉県春日部市の道路脇のセイバンモロコシでイネカメムシの交尾を確認し、葉についていた卵を採取した。7月7日には、北本市のセイバンモロコシの穂で3齢幼虫を確認した。
越冬世代の次の世代になってから飛来することも!?
これらを考えると、イネカメムシは越冬地(落ち葉の下など)から直接水田に飛び込むのではない。
春に暖かくなるとリュウノヒゲなどの潜伏地へと移動を始め、植物の葉から水分を補給しながら集団で過ごす。イネ科植物の穂が多く出るころには繁殖のための本格的な活動を始め、6月下旬には、雑草地にてイネ科雑草の穂の汁を吸い、かつ繁殖している。越冬地、潜伏地、イネ科雑草を経て水田に行くのだ。
ちなみに、7月3日に春日部市で採取した卵からは幼虫が孵化したので、メヒシバなどの穂を与えて飼育してみた。7月27日に第1世代成虫が羽化し、その後産卵した。そして9月18日には、その卵から第2世代成虫が羽化した。室温より外気温は高いので、自然状態ではより世代交代も早いだろう。
つまり、7月下旬に田んぼへと飛来するイネカメムシは越冬成虫だと考えられていたけれど、第1世代の成虫も越冬世代と共に飛来していることがわかった。
薬剤散布はムダも多い!?
24年のイネカメムシ被害を受け、25年、埼玉県や栃木県などでは農薬の空中散布が従来の1回から2回に増えたところが多かった。
私たちは空散の必要性を確かめるため……
この続きは『現代農業』2026年6月号または「ルーラル電子図書館」でご覧ください。
『現代農業』2026年6月号の巻頭特集「今だから知りたい 温暖化と虫の話」イネカメムシコーナーには、以下の記事も掲載されています。ぜひご覧ください。
・イネカメムシのすくい取り調査に同行! 1回3000円がムダ防除になっていないか?(NPO法人オリザネット)
・無理やり殺さなければ、天敵が現われる 有機稲作でも、イネカメムシ被害が抑えられた 舘野廣幸
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