元農薬メーカー勤務の小巻秀任さん(2025年6月号p222他)に、畑の病害虫の観察ポイントや農薬を使わない管理法を紹介していただく新連載が、2026年1月号からスタートします! Webではその第1話を公開。今回は自己紹介です。
執筆者:小巻秀任(神奈川県平塚市)
『現代農業』2026年1月号 「子供時代のあだ名は「虫博士」」より
虫の観察で夜が明けて
神奈川県平塚市にて、7haの農地で年間150種類の固定種の野菜をつくっている。栽培では落ち葉やカヤ、米ヌカなどが原料の植物性肥料しか使わない、昔からの伝統的な農法をとっている。農薬、化学肥料、動物性堆肥は使わない。野菜は自営の直売所や通販で販売している。
子供の頃、外で虫を観察するのが大好きだった。友達と虫とりに行けば、なぜか自分の顔にだけカブトムシがぶつかってくるのでうれしかった。1人で森に入れば、時間を忘れて虫を見ているので、夜まで帰らず大人を困らせた。そのうちについたあだ名が「虫博士」だった。この頃のオタクぶりが、自分の農業の原点なのではと思う。
ついこの前も、畑で虫の観察を始めたが、つい熱が入って帰りが夜明けになってしまい、妻に「虫マニア」の称号をいただいた。
野菜の一生と向き合う
農業は、自然と相対し、生命である野菜の生育を見守る仕事である。私自身はというと、畑にいると興味関心が尽きない。自然界は奥深いので、ときには虫の気持ちとなり、ときには土となってその仕組みを理解しようと努めてきた(しかし、だいたいがお邪魔虫となっている)。
私は、野菜を自家採種している。自家採種とは、野菜のタネを採ること。今のように自由にタネを買い求められない時代、どの家でも普通に行なっていた技術だ。タネから育てられた野菜は、大切な旬の食料として家族の生活を支え、最後にはまたタネとして残され、未来につながれてきた。
また、私のつくる野菜はすべて固定種である。固定種とは、昔から人々が紡いできた自家採種可能な野菜のことだ。自家採種をするということは、私たちと同じ生き物として、野菜の一生と向き合う仕事でもある。
その野菜の一生をのぞくと、さまざまなものが見えてくる。野菜はあらゆる自然環境と密接にかかわっていて、そのなかでも虫と野菜の関係はとてもおもしろい。野菜を管理する側の人間が、これらの虫とどのように接するかで、野菜の生育は大きく変わる。
観察で変則的な発生を予測
当農園では17年より、自家採種をしながら虫の観察を続けてきた。その結果、虫の種類ごとに、野菜のステージごとに、自然界にいたときとは違う、畑という人工的な環境であるが故の「発生パターン」があることがわかった。また、それぞれの野菜ごとに「好きな日・嫌いな日」、「好きな場所・嫌いな場所」があることがわかってきた。
近年、異常気象が常態化している。「これまでの栽培の常識が通用しない」という言葉をよく聞くようになった。だからこそ、観察がとても重要である。虫の発生パターンをよく知ることで、異常気象によりどう変わったのか、どう生態が変わったのか、その変則的な動きを早期発見できる。結果、速やかに対応することで、被害を最小限に抑えることができるようになってきた。
いっさいの薬剤を使用しない農業をする私にとって、この成果は大きい。それぞれの虫の発生パターンをしっかりと知り、適切な対応をすることで、虫の密度を下げ、野菜の栽培に生かすことが可能となったのだ。
アブラムシは雨の日が嫌い
例えば冬のアブラムシ。25年1~2月にハクサイ畑でカウントした有翅体は、17年同月の100倍だった。寒くなくなったので成虫が死なず、越冬・繁殖できるのだ。それでも「雨の後3週間ルーティン」で防除すれば大発生を防げる。アブラムシが嫌いなのは、雨の日だ。その雨の後はいっせいに有翅体になり、他の野菜に飛来し、その3週間後に新たな有翅体が生まれる傾向がある。この発生パターンを逆手にとるのだ(2025年6月号p222)。
害虫の行動をあらかじめ予測することで、省力化もできる。一部の野菜では、防虫ネットを使わずに栽培することができるようになった。
伝統的な防除法にも学ぶ
私は前職がサラリーマンで、農業系製薬会社にいた経歴がある。持ち場は研究畑であった。現在行なっている農業のコンセプトとは、まるで真逆な立ち位置にいたことになる。私は農薬を開発する立場で農業の現状と向き合った。そして疑問を持った。薬剤に抵抗性のある害虫や新たな病気の出現は止まることがなく、望まれる新薬の開発、そのたびにかかる多額な研究費……。終わることのない闘いに思えた。
「自然を抑えつける農業は本当に正しいのだろうか」「本当に未来に残せる農業なのだろうか」。常にこの言葉が心の片隅にあった。
現代人の食糧を担う農業にとって薬剤は必要不可欠である。そのことをわかってはいながら、どうしても納得ができなかった私は、自ら「農薬を使わない農業」の研究を始めた。
また、私は固定種を求めて全国を旅した経験がある。その際に、薬剤のなかった時代に培われた、野菜を病害虫から守るための虫が嫌いな発酵液など、伝統的な防除法に触れる機会があった。当農園では、前述の観察による防除と、これらの技術も大いに活用し、薬剤を使わない野菜づくりに生かしている。
当農園の実績をもとに、薬剤を使わない病害虫の防ぎ方について、これからいくつか紹介していきたい。
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