農業に詳しい特定社会労務保険士・福島公夫さんによる、税制改革記事の第2弾。2025年4月号では、世間で大きく話題となった「年収103万円の壁」など、動きつつあった税制変更についてご紹介いただきました。今回はその後正式決定した内容や、現在大きく話題となっている社会保険制度の変更について、わかりやすく解説していただきます。
執筆者:福島公夫(特定社会保険労務士)
『現代農業』2025年12月号 「税制と社会保険の変更がよくわかる話」より
130万円の壁は残った
2025年4月号でご紹介した通り、所得税発生や扶養認定の境目となる「年収103万円の壁」は、2025年3月の税制改正により大きく変更されました。結局「160万円の壁」まで引き上げられることとなり、今後は160万円を超える収入から所得税が引かれることとなります(下の表)。
しかし、多くの農家がより注目すべき壁があります。それが社会保険(年金・健康保険)に関わる「130万円の壁」で、こちらはそのまま変わっていません。個人農家や農業法人(従業員50人以下)で働き、配偶者の扶養となっているパートタイマーやアルバイトは、今後も130万円以上働くと自分で国民年金保険料(年間約20万円)と国民健康保険料(約10万円)を支払うことになります。
ここでややこしいのが「扶養を外れるかどうか問題」です。配偶者の扶養となっている人は、所得税では、以前から年収103万円を超えても150万円まで満額で受けられる「配偶者特別控除」の対象でした(今回160万円に変更)。そのため、103万円は自身の所得控除の壁でしかなく、社会保険に関わる130万円の壁の影響が大きいのです。その状況は変わりません。
学生バイトは前より働ける
一方、19歳~23歳未満の方(配偶者以外、おもに学生アルバイト)には大きな変更がありました。
「特定親族特別控除」が新設され、親が所得税の扶養控除を受けるための年収の限度額が、103万円から150万円に引き上げられました。それに合わせて、健康保険の扶養も150万円に引き上げられたのです(25年10月)。
ですから、学生アルバイトは年収150万円未満であれば、税金も健康保険も扶養でいられます。これまでより働く時間を増やしやすくなり、とくに大学から近い農家などで、活躍する機会が増えるかもしれません。
一時的な収入増なら大丈夫
さて、ここで社会保険「130万円の壁」の話に戻ります。じつはこの制度、意外と柔軟な取り扱いになっており、一時的に130万円を超えても扶養のままでいることができます。
厚生労働省は、「繁忙期に労働時間を延ばすなどにより、収入が一時的に上がったとしても、事業主がその旨を証明することで、引き続き配偶者の扶養に入り続けることが可能になる」としています。また、その「一時的な収入変動」の範囲については、新たな年収の壁となりかねないことなどから、上限額は定めていません。
ですから、個人農家や農業法人(従業員50人以下)で働く扶養の従業員がもし130万円を超えても、事業主が「一時的な収入変動」の証明ができれば、連続2年間までは引き続き扶養のままいられます。これには、下のような用紙の提出が必要です。
農家は、作付けや天候などで労働時間が変わりやすい職業です。また、腰を痛めてしまったから、今年の収穫時期にはいつもよりパートさんに多く働いてもらわないと――などという方も多いのではと思います。この制度を覚えておくと、労使双方の安心につながるかもしれません。
法人は社会保険に加入義務
「130万円の壁」は変わらないものの、社会保険制度では25年に大きな変更がありました。「年金制度改革法」が6月13日に成立。その中で、人を雇用している農業経営者に関係する改正が行なわれたのです。
まず、下の表をご参照ください。これは社会保険(年金・健康保険)について、農業法人と個人農家それぞれきほんをまとめたものです。この表のうち、「健康保険」や「厚生年金」への加入義務は限られており、農業法人(従業員50人以下)のパート・アルバイトでは、これまで所定労働時間または所定労働日数が正社員の「4分の3以上」でなければ加入義務はありませんでした(例えば週の所定労働時間が44時間なら、33時間以上働くパートは加入義務)。
ところが、年金制度改正法により労働時間等の「4分の3以上」の要件が段階的に撤廃され、週20時間以上働く人はこれらの保険に加入させていくことになりました。加入すれば、従業員は年金額が増えるなどのメリットがありますが、事業主は保険料の半額を負担することになります。
週20時間以上働く人をこれらの保険に加入させる時期については、従業員数によって異なります。右に示すように、農業法人で従業員10人以下なら2035年の10月です。
個人農家の加入は猶予
個人農家も健康保険や厚生年金に加入することはできますが、これまで加入は「任意」とされていました。しかし年金法改正により、個人農家も29年10月からは、正規従業員が5人以上になれば加入が義務になりました。
とても大きな変更のような気がしますが、慌てる必要はありません。経過措置として、施行時に存在している個人農家(既存事業所)は、当面期間を定めず適用除外とする扱いです。ですから、すでに就農している皆さんに今回の変更は影響せず、29年10月以降に新規就農して正規従業員を5人以上雇った個人農家が適用になります。
個人でいきなり5人雇う農家もなかなかいないでしょうし、実務的には当面、個人農家の加入義務は規定されなかったといえます。とはいえ、優秀で長く働いてくれる人材を求める方は、あえて任意加入するというのも一つの手ではあります。
労働保険は今後個人も加入義務
いっぽう、広義の社会保険とされる労働保険(労災保険・雇用保険)は、今後大きく変更される可能性が高くなってきました。現在でも、常時5人以上雇用している個人農家には労働保険の加入義務がありますが、5人未満なら加入は任意とされています。
近年農作業事故が増え、死亡者が建設業の2倍に上ることなどから、「労災保険については、5人未満でも加入義務にすべき」との意見が政府の審議会で出されています。商店など他産業の個人経営では、1人でも雇用すれば労働保険への加入はすでに義務。近いうちに、個人農家でも1人でも雇用すれば労災保険への加入は義務になると予想されます。
農業の場合、労災の保険料率は1.3%――年収300万円のスタッフなら年間3万9000円です。わずかな保険料で、万が一の場合に従業員が保険で治療を受けられる、非常におトクな制度といえます。
最近はスキマバイトの人材紹介の際も、その農家が労災に加入していることが前提になります。義務化の如何にかかわらず、人を雇う方なら入って損のない制度です。
賃金の基準にデータ
さて、農家・農業法人に正社員として雇われ、一家を扶養している従業員の方々がいます。今回最後に、そうした正社員の年収が、地域の賃金と比べて適正か調べる方法を紹介します……
この続きは『現代農業』2025年12月号または「ルーラル電子図書館」でご覧ください。
改訂新版 農家・農業法人の労務管理
人材確保、就業規則、賃金、労働・社会保険
福島公夫・福島邦子 著
社会保険や労務管理がよくわかる本。
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