ノーディグとは、土を耕さずに堆肥と段ボールで作物を育てる農法。その入門書『簡単、楽しい ノーディグ菜園教室――段ボールと堆肥で耕さない農業』(チャールズ・ダウディング著/あらたにあきこ訳)が2025年12月に発売されます!本書の発行元である「日本ノーディグ協会」の小林民雄さんにノーディグ菜園の魅力とすすめ方を教えていただきました。
執筆者:小林民雄((一社)日本ノーディグ協会)
『現代農業』2025年11月号 「「ノーディグ菜園」のすすめ」より
ノーディグ菜園とは
私は48年間にわたり、(株)ホーネンアグリという会社で、タネ播き用土や鉢上げ用土を製造・販売してきました。植物でいえば、赤ちゃんから幼児期にあたる、大変デリケートで大切な生長初期を支える用土です。だからこそ、品質のよい用土の需要も非常に高く、長年、責任を持って製品を提供してきました。
おかげさまで苗づくりの現場では多くのご支持をいただきましたが、じつは私が関わってきたのは育苗までの過程であり、その先にある収穫の喜びや、自分で育てたものを食べる楽しみを実感することは、ほとんどありませんでした。苗屋さんと農家の方々がさまざまなご苦労を乗り越え、収穫の喜びを味わってこられた姿を、私はずっと「見守る立場」でした。
そんな中で堆肥づくりに関わるようになりました(有機JAS対応の「緑の堆肥」と非対応だが安価な「スーパー緑の堆肥」)。第二の人生として、その堆肥を活かして何かできないかと考えていた2024年に出合ったのが、「ノーディグ菜園」でした。
「ノーディグ」とは「No-Dig」。直訳すると「掘り返さない」という意味です。第一人者はイギリスのチャールズ・ダウディングさん。土を掘らずに、作物を育てていく農法で、世界的に注目されている一方、日本ではまだあまり知られていませんでした。
段ボールと堆肥だけでいい
やり方は、地面に段ボールを敷き、その上に堆肥を厚さ約10cmほど載せるだけ。そこへ苗を植えます。たったこれだけの作業で、耕す必要もなく、草取りもほとんどいらなくなります。
さっそく家庭菜園で実践。草取りが嫌で遠ざかっていたのに、ずいぶん気楽に感じられました。なにより、収穫した野菜を自分で食べる喜びを初めて実感できたのです。この経験は私にとって非常に大きなものでした。
それでは私がどのように実践していったか、今回は6つのステップでご紹介します。
ステップ1:作る場所と広さを決める
畑の上に木で枠組み(1.2✕2.4m)を作る。このときはチャールズ・ダウディング氏のガイダンスに沿ったが、枠はなくても問題はない。
ステップ2:段ボールを敷く
段ボールを開いて、菜園の広さに合わせて地面に敷き詰める。隙間があるとそこから雑草が生えてくるので、すき間がないように敷くのがポイント。
ステップ3:段ボールに堆肥を載せる
堆肥の量は、1.2×2.4mの広さの場合、40l袋で6つが目安。堆肥を載せたら足で踏んで約10cmの厚さにして、表面を平らにならす。土を掘り返さなくてよいのでラク。
ステップ4:苗を植える
タネを播くのではなく、苗(ポット苗など)を植える。堆肥の上から、苗が入る大きさの穴を掘る。段ボールも苗の根が入るように移植ゴテなどで穴をあける。
ステップ5:作物が育つ
順調に作物が育ち、雑草もほとんど生えず、出ても草取り作業がとてもラク。
ステップ6:収穫!
そして8月現在、上の写真のようにナスなどの野菜の生育がとてもよく、毎日収穫できています。段ボールは3カ月ほどで分解されて溶けてなくなりました。草が気にならなければ補充する必要はありません。堆肥の高さは1年で1.5cmほど低くなるそうで、2年目に補充をする予定です。
誰もができる優しい農法
このように、私は日本でノーディグ菜園を実践してみて、苦労することなく、改めてその「ラクさ」「簡単さ」、そして「収穫する楽しさ」「自分でつくった作物をおいしい!と味わう幸せ」を体感することができました。
ノーディグの原点に触れるため、25年3月末にはチャールズ・ダウディング氏をイギリスに訪ね、直接セミナーを受講してきました。彼の思想は「耕さない」「草が少ない」といった技術にとどまらず、自然との調和や、土中の微生物の力への信頼といった、深い哲学に支えられています。
その理念に共鳴し、私は今後日本での普及活動を進めたいと考え、「一般社団法人 日本ノーディグ協会」を設立しました。この取り組みが持続的に、日本各地に根付いていくことを願ってのことです。
ノーディグ菜園は、農業の常識を覆す仕組みでもあると私は思います。畑の見た目も整っていて美しく、子どもから高齢者まで誰でも無理なく取り組める。とくに家庭菜園にはぴったりです。また燃料を使わず、土を壊さず、環境にも優しい。まさにSDGs時代に合った農業の形です。そしてたくさんの人に「育てる喜び」と「食べる幸せ」をもたらすものです。
育てて食べる幸せを
今の日本には「野菜をつくってみたいけれど、一歩が踏み出せない」「手間が少ないならやってみたい」など、農業に関心を持つ方が多くいます。いつか、食料が手に入りにくい時代が来ないとも限りません。そうした未来に備える意味でも、このノーディグ菜園は、大きな可能性を秘めていると信じています。
ノーディグという小さな農の革命を、より多くの人に届けたい。誰もが「育てる楽しさや喜び」と「食べる幸せ」を味わえるようにしたい。そんな願いを込めて、文章を締めくくります。これからも誠心誠意、普及活動に努めてまいります。
簡単、楽しい ノーディグ菜園教室 段ボールと堆肥で耕さない農業★2025年12月発売
チャールズ・ダウディング 原著/あらたにあきこ 訳
畑に段ボールを敷き、上に堆肥をのせるだけ。耕す必要がなく草取りもラクなのに、元気な野菜が育つ。家庭菜園や学校園にピッタリ
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