春にはカエルの合唱が田んぼに響き渡り、愛嬌のある顔で子どもたちに人気のアマガエル。他のカエルよりも環境の変化に強いといわれていますが、田んぼの水を抜く作業「中干し」の時期によっては、オタマジャクシが死滅する可能性があり、注意が必要です。
新潟・服部謙次
ニホンアマガエル
- 無尾目アマガエル科
- 生息地:南西諸島を除く日本全土
- 体長:20~45mm
- 見られる時期:春~秋(寿命は4~5年といわれる)
雨が近くなると、クワックワッというニホンアマガエルの鳴き声が聞こえる。雨を呼ぶカエルという意味で「雨蛙」の名前がついたようだ。昔から詩歌にも詠まれ、身近な生きものだった。
春に田んぼに水を入れると待ち構えていたように集まってきて、夜には大きな鳴き声で大合唱を始める。鳴くのはオスで、この声でメスを呼ぶ。メスを見つけて交尾(抱接)すると、まもなく産卵が始まる。卵は水中を漂い、田植え後のイネの葉にもよく付着する。卵から孵ったオタマジャクシは水草や動植物の死骸などを食べて成長し、1カ月ほどでカエルになって上陸する。
愛嬌のある顔で、人を恐れずに手にもよじ登るので、子どもたちに人気がある。生きもの調査ではアマガエルばかりを捕まえる子が必ずいる。ただし、皮膚には毒があるので注意が必要だ。触った手でうっかり目をこすると、目が開けられなくなるほどヒリヒリと激痛が走る。カエルと遊んだ後は手をよく洗ってほしい。
毎年農家が水を入れてイネを育てる田んぼは春には「湿地」、夏と秋には「草原」になる。こういった環境はアマガエルには好適だ。水から上陸したカエルは稲株やアゼ草の中に身を潜め、害虫を盛んに食べてイネとともに成長する。
*近年、この種は日本列島の東西で遺伝的に異なる2つのグループに分かれていることが確認された。将来は2種に分類される可能性がある。
圃場整備で田んぼにいたカエルの多くが絶滅に瀕しているが、アマガエルはなんとか生き延びている。他のカエルよりも乾燥に強く、足に吸盤が発達していて移動能力が高いからだろう。新しくできた浅い水辺を好んで少しずつ何回も産卵し、数日程度で孵化するなど、不安定な水辺環境に適応していることも大きいだろう。
ただし、中干しは脅威だ。カエルになる前に水が抜かれると死滅してしまう。落水前には、イネだけでなく、オタマジャクシの成長にも目を向けてほしい。最近話題の中干しの延長は大きなダメージとなるだろう。長らく連れ添った隣人さえも棲めない田んぼが増えるのではないかと、とても心配だ。
(新潟県佐渡市・元農業普及指導員)
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