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【果樹の受粉技術】サクランボにマメコバチ ヨシ筒割りがいらない掃除棒2種

特集

中国産花粉の入手難が続き、国産花粉も価格高騰が止まらないなか、現場では購入花粉だけに頼りきらない工夫が広がっています。本記事では、山形県でサクランボをつくる大江松男さんに、果樹の受粉を支えるマメコバチ飼育のコツと、便利な自作道具についてご紹介いただきました。

取材対象者:大江松男(山形県東根市)

『現代農業』2026年4月号「サクランボにマメコバチ ヨシ筒割りがいらない掃除棒2種」より

24、25年も平年並みの収量

 山形県といえばサクランボ。東根市といえばサクランボの生産量日本一、駅名にサクランボの名が付くほどの産地です。

 2024、25年と、山形県のサクランボは2年続きで大不作となりました。受粉不良、果実の高温障害などいろいろな要因が重なってのことですが、とくに25年は平年の約5割作まで落ち込み、この事態に山形県全体で危機感を覚えています。近年の異常気象を人間の力で変えるのは不可能ですが、栽培上最も重要な受粉作業に欠かせない訪花昆虫の管理は、しっかりしていかなければならないと思います。

 私は、レコード針で有名な地元企業の株式会社ナガオカに定年まで勤めながら、30aでサクランボ(雨よけハウス)をつくって40年になります。受粉作業は30年前からマメコバチ(p158)による自然受粉だけですが、24、25年ともに平年並み(悪い園地でも約8割)の生産量を確保できました。

ヨシ筒内部を自作の掃除棒(T字型棒)できれいにする筆者(72歳)。サクランボは6品種栽培。箱にこんもりと溜まっているのは、巣箱3つ分のヨシ筒から掻き出したマメコバチのマユの抜け殻、天敵、ゴミなど
ヨシ筒内部を自作の掃除棒(T字型棒)できれいにする筆者(72歳)。サクランボは6品種栽培。箱にこんもりと溜まっているのは、巣箱3つ分のヨシ筒から掻き出したマメコバチのマユの抜け殻、天敵、ゴミなど

ヨシ筒管理は時間もお金もかかる

 園地にはマメコバチの巣箱が11箱あり、「ヨシ筒」の本数は合計1万3000本ほどです。ヨシ筒はそのままにしておくと内部でマメコバチの天敵が増えるので、30年前までは毎年冬場にヨシ筒を全部割り、マユ(越冬中の成虫)を取り出していました。マユは次作の種バチとして使うので、カツオブシムシやコナダニなどの天敵やゴミを洗い流して乾かしてから、菓子箱などに入れて開花前まで冷蔵保存していました。

 ヨシ筒割りとマユ洗浄には多大な労力がいります。その上、ヨシ筒は一度割ったら再利用できなくなるので、毎年新しいものを補充しなくてはなりません。当時はヨシ筒を全部買っていたので、時間もお金もかかっていました。

巣箱内に設置したヨシ筒(雨や雪で浸からないよう、台の上に載せる)。1箱当たりの本数は1200本ほど。風通しが悪くなるので、巣箱いっぱいには置かない
巣箱内に設置したヨシ筒(雨や雪で浸からないよう、台の上に載せる)。1箱当たりの本数は1200本ほど。風通しが悪くなるので、巣箱いっぱいには置かない
巣箱内に設置したヨシ筒(雨や雪で浸からないよう、台の上に載せる)。1箱当たりの本数は1200本ほど。風通しが悪くなるので、巣箱いっぱいには置かない
「マメコバチが好き」な黄色に塗った巣箱。箱の中が高温になってマメコバチが死なないように、屋根材はトタンではなく樹脂製の波板を使用

ヨシ筒割りからの解放

 そこで、ヨシ筒は買わずに自分でつくることにしました。今でも毎年必要分は確保していて、秋、河原からヨシを刈り取り、節を中心に片側が15cm以下になるように切り分けます(両側を使用)。マメコバチが穴に入りやすくなるように、切り口は斜めにします。理想の太さは5~7mmです。

 併せて、2種類のヨシ筒内部掃除棒を考案。これらを自作して使い始めて以来、マメコバチが天敵で全滅する心配からも、全部のヨシ筒を割るツラさからも解放されました。それぞれの掃除棒の特徴を説明します。

マメコバチが巣立った後のヨシ筒内部(撮影用に割った)。節を挟んで片側はカツオブシムシ、もう片側はマユの抜け殻。これらをT字型棒で掻き出す

 一つは、新たに確保したヨシ筒内部を掃除する「円型棒」(上の棒)。棒の先端にお茶碗のような形の部品が付いたものです。ヨシ筒は未使用でも、内部にゴミや虫の卵などが入っていることがよくあり、それらはのちに天敵の棲み処になります。棒を奥まで入れ、内壁に押し当てながら手前側に引くと、耳かきのようにヨシの内皮ごとゴミや虫の卵を取り出すことができます。

 もう一つは、マメコバチが巣立った後のヨシ筒内部を掃除する「T字型棒」(下の棒)。棒の先端には、円型棒のものよりも小さく、両端の尖った部品が付いています。マユの抜け殻を放置しておくと、別のマメコバチが新たに営巣できなくなりますし、やはり天敵の棲み処にもなります。棒を何度か抜き差しすれば、天敵ごとマユの抜け殻を掻き出すことができます。

新しいヨシ筒1本から出たもの。円型棒なら内皮もズルリと剥ける
新しいヨシ筒1本から出たもの。円型棒なら内皮もズルリと剥ける

新しいヨシ筒は1000本で十分

 実際に作業するのは、冬季せん定の合間。園地から1万3000本のヨシ筒を自宅に持ち帰り、マメコバチが営巣していない(土壁が見えない)ものだけを掃除します。また、毎年掃除をして数年間使い続けたヨシ筒のなかには、自然と割れているものがあります。それらは新たに確保したヨシ筒と交換します。

 すべてのヨシ筒を割っていた頃と比べると、作業時間はかなり短縮できています。新たに確保するヨシ筒も、毎年1000本ほどあれば十分です。経験上、新しいヨシ筒よりも1、2年経ったもののほうが、マメコバチが営巣するようにも感じます。

製品化したものもある

 2、3年前から、地元の農協ではマメコバチの種バチの供給ができない状況になっています。そんな中、私をはじめ毎年ヨシ筒管理に手が回せている仲間の園地では、元気にマメコバチが飛び回り、受粉作業を手伝っています。24、25年の山形県の作況もあり、あらためてマメコバチの大切さがわかった気がします。

 掃除棒は、『農業共済新聞』25年1月4週号で掲載されました。反響が大きく、県内のサクランボ農家をはじめ、青森のリンゴ農家や農協関係者などから問い合わせをいただき、みなさんがいかにマメコバチの減少で困っているのかもわかりました。掃除棒は現在、製品化したものもあります。これらがみなさんのヨシ筒管理の一助になれば幸いです。

2026年4月号「脱・購入花粉 果樹の受粉はこれでバッチリ」コーナーには、以下記事もあります。

生きものと仲良く受粉
・ナシの受粉は「専門家」のクロマルハナバチにまかせた 三橋憲一郎
・リンゴにマメコバチ ストロー巣と杉板巣を使ってみた 工藤昌弘
・カキ園に白クローバ コマルハナバチを呼び込む 日下石碧
花粉を自給
・家庭用暖房器具で開葯 リンゴ3ha分の花粉をまかなう 工藤貴久
・イネの育苗器で切り枝の開花を早める(千葉・廣谷健一郎さん)

ぜひ本誌またはルーラル電子図書館でご覧ください。

虫がよろこぶ花図鑑
ミツバチ・ハナバチ・ハナアブなど

前田太郎 著
岸茂樹 著

虫がよろこんで訪れる花175種を詳解。園芸種はもちろん、野山や道端の花、作物の花について、訪れる虫の種類と訪れやすい色、香り、形などがわかる。花蜜の糖度や花粉の量もわかり、養蜂家にも必携の書。

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現代農業 2026年4月号

特集:芽と根と菌の力がみなぎる 野菜つくりの裏ワザ2026

定価
1,100円 (税込)