せん定知らずとも、反収5t! 母ちゃんたちのリンゴ高密植栽培
せん定知らずとも、反収5t!
母ちゃんたちのリンゴ高密植栽培
長野県飯田市「グミの会」のみなさん
◆マークは本誌192ページに用語解説あり
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樹間を1m以下に狭め、10a300本以上もの苗を植えるリンゴの高密植栽培。先進県である長野県の飯田市座光寺地区でこの栽培法をいち早く取り入れ、地域をリードしてきた母ちゃんたちの話--。
父親世代がそろそろ引退
「グミの会」がスタートしたのは、30年ほど前になる。普及センターの呼びかけで集まった農家の嫁の勉強会。畑や家事、子育ての片手間ではなく、ちゃんと家族に認めてもらって農業の勉強をしようと、平日の日中に集まって果樹の栽培技術を学んできた。
長野県の関係機関がリンゴの高密植栽培を普及させるべく、試験場の育成したウイルスフリー苗を使って◆取り木繁殖を始めたのが、15年ほど前。「グミの会」の結成当初は40歳前後だった母ちゃんたちも50代半ばとなり、父親世代がそろそろ引退に差しかかる頃だった。多くは兼業農家で、旦那はお勤め。「自分がやらなくっちゃ」との思いが強まっていた。
15年前、タネを播いて苗木つくりに挑戦した
もちろん、それまでだってSSを自分で運転して消毒もしてきたし、施肥も管理作業も男に負けない働きをしてきた。でも、せん定だけはずっとじいちゃんの仕事……。
いっぽう、今度の高密植栽培ではせん定の技術はほとんどいらない。植えて2年目から収穫し始め、5年目には反収4~5t。マルバ樹の2倍以上の高収量が早期に実現できるのだとか。
「グミの会」の連絡役である三村茂子さんの夫、貞美さんは元長野県専門技術員で、当時はJA全農長野の技術審議役としてこの栽培の普及にあたっていた。そこで、母ちゃんたちも貞美さんに習いながら挑戦。台木の「◆M9ナガノVF」を取り木繁殖するために、その接ぎ木枝を全農長野から分けてもらい、自分たちで苗をこしらえるところからスタートした。
取材時に三村さん宅に集まってくれた母ちゃんたちが、当時のようすを振り返る。
宮崎千文 あの頃、父が病気で「両親がずっとやってきた樹が枯れるまでは、継いでいかなきゃ」って気持ちになってたときだった。
原田道子 あの頃はホント楽しかったなー。なにもかも初めての挑戦で、私でもタネから苗ができた、接ぎ木したらホントに成功した!ってのがうれしくってね。
三村茂子 まずはみんな接ぎ木ナイフを買って、うちの事務所に集まって、冬にストーブつけて苗つくっただなぁ。M9は◆挿し木繁殖ができんもんで、川砂にリンゴのタネ播いて実生苗を育ててから、そこにM9の枝を接ぎ木してね。
庭先でM9ナガノ自根苗をつくる
原田道子さん(71歳)は自宅の庭先で苗をつくる。
この記事には続きがあります。本誌164~175ページをぜひご覧ください!
記事といっしょに編集部取材ビデオ
[ことば解説]
取り木繁殖(とりきはんしょく)
枝の途中から根を出させ、そこで切りとることで新しい株を得る方法。リンゴのM9台木の場合、挿し木繁殖できないので、株元から根付きのひこばえを引っこ抜くなどして、取り木する。
M9ナガノVF(えむきゅうながのぶいえふ)
リンゴのわい性台木の一種。その由来はフランスの庭園果樹に用いられていた品種で、イギリスのイーストモーリング試験場が「M系台木」として系統選抜。そのなかのM9台木は世界の多くの高密植栽培圃場で使われている。長野県では昭和30年代にM9台木を国から導入したが、ウイルスを保毒していたため、温熱処理や組織培養技術などによって無毒化し、現在は「M9ナガノVF」が使われている。VFはVirus Freeの略。
挿し木繁殖(さしきはんしょく)
枝を用土に挿して発根させ、新しい株を得る方法。切り口にできたカルスや、基部の芽の周辺の根原基から発根する。ブドウ、ブルーベリー、イチジクは挿し木繁殖が容易。リンゴの台木では挿し木繁殖ができるものと、できないものがある。
リンゴの高密植栽培 イタリア・南チロルの多収技術と実際
小池洋男 著
早期多収・軽労化・高品質が魅力のリンゴ矮化栽培で、いま世界で新しい動きが広がりつつある。モデルとなるのはイタリア南チロル地方で考案されたトールスピンドル整枝。結果枝・側枝を徹底下垂誘引することで樹勢をコントロール、10a300本超という高密植ながら光線利用率を高め、文字通りの高収量と省力性を実現。本書は世界トレンドとなっているこの高密植栽培の多収理論の基礎から苗木生産、早期着果、樹形管理、整枝剪定など各技術の実際を、図解で丁寧に解説、本邦初のまとまった紹介本。