千葉・内山好博
原油価格の高止まりはこの先もまだまだ続きそうです。でもこんなときこそ「転んでもタダでは起きない」のが農家。機械作業を見直して、地域資源や身近なエネルギーを生かせば、経営も人の体もラクになります。ガマンの節約術ではなく、楽しい痛快なワザ。この連載は、月刊『現代農業』の過去記事もとに「燃料高騰緊急特集」として月に1本ずつ公開(期間限定)していきます。

少しでも重油代を減らしたい
九十九里浜のほぼ中央に当たる大網白里市で、周年キュウリを中心に促成トマトや促成ナス、ミニトマトをハウス約3000坪で栽培しています。2008年ごろまで11月から3月まで加温のため重油暖房機を焚いていました。
2008年は燃油代がグンと上がった年。保温のためにエアーカーテンを導入したとき、群馬県の栗原資材(株)に「もっと油代を節約できる方法がある」と薪ストーブ「ゴロン太」を紹介されました。

年間200万円浮いた

ゴロン太は長さ1mほどの丸太を割らずに、薪の継ぎ足しなしで最長8時間燃やすことができる加温用のストーブです。古くなったハウスを改築するのに合わせて1台導入することにして、本体と煙突、送料などを合わせて35万円で購入しました。これを900坪のキュウリのハウスに設置。暖房機と併用しました。
このとき重油代が何円浮いたか忘れてしまいましたが、重油タンクの給油回数は900坪の私のハウスで週1回、薪ストーブを使っていない近くの農家の300坪のハウスも週1回。暖房の焚き方に違いはあるとは思いますが、重油代が3分の1だったことは確かです。
手ごたえを感じたので、ハウスの増築とセットで徐々に台数を増やし、現在3000坪のハウスに合計4台のゴロン太と10台の暖房機で加温しています。薪ストーブで少しでもハウス内の温度を上げることで、暖房機の燃焼量が減り1日にドラム缶2本ほど重油を節約できました。金額に換算すると、1年当たり約200万円の節約です。
地域の倒木や廃材をフル活用

薪は親戚が経営している植木屋に80cmに切りそろえた丸太を、ただでハウス横の薪置き場まで持ってきてもらいます。また、近所の人たちにも「勝手に薪置き場に置いといていいよー」と声をかけてあるので、台風で折れた倒木などがどんどん集まります。生のスギはとくに煙やタールが出て煙突が詰まってしまうので、丸太はどれも1年乾燥させます。
18時ごろからストーブと暖房機を焚きはじめ、燃焼時間を延ばすため22時半に薪を足すと、朝の見回りに行く6時まで燃えています。直径40cm長さ1mの丸太を入れたこともありますが、太すぎて燃えにくく、直径20cmの丸太を10本入れたほうが火力も十分でよく暖まりました。

すかし換気で褐斑病が減った
越冬キュウリで一番悩まされるのは褐斑病です。夕方加温を始めるときにハウスを密閉せずすかす(内張りカーテンのすき間を開ける)と、除湿できてある程度病気を抑えられると指導されていました。しかし、暖房効率が悪く油代が増えるため積極的にやっていませんでした。また、寒さがよどんでいるとその場所に病気が出やすいという問題もありました。
そこで薪ストーブの導入に合わせてハウス内の暖気の循環も見直し、ファンやダクトの配置を工夫しました。ムラなく暖気が対流するようになり(右ページ図)、また薪ストーブ併用で重油代を気にせず、すかし換気ができるようになったおかげで、褐斑病が減り、長く収穫できるようになったので収量も上がりました。
焼きイモがパートさんに大人気
朝6時にストーブを確認するときに、大きな炭は燃えきる前に取り出して消火。バーベキュー用の炭として活用しています。くすぶっている炭は火鉢に取り出し、ダッチオーブンにサツマイモを入れて焼くとちょうど10時のおやつの時間においしい焼きイモが完成。パートさんに大人気です。
燃え残った灰や炭は2日に1回取り出して掃除し、一度ペール缶に詰めてフタをして消火します。これをふるいにかけて灰と小さい炭に分け、灰はハウスの入り口や通路などに石灰消毒の代わりにまき、小さい炭は土壌改良効果を狙って、土づくりのときにすき込みます。

重油代減らし以上の効果
重油代減らしのために薪ストーブを導入しましたが、油代だけでなく病気が減り、収量も上がりました。ムラなくハウスを加温する技術を学べて、ストーブの導入コスト以上の価値を感じています。
今年からさらに重油代を減らすために、高い生育温度が必要なキュウリの面積を1000坪ほど減らし、比較的低温でも栽培できるイチゴやミニトマトに切り替え、燃油代高騰を乗り切ります。
*月刊『現代農業』2022年11月号(原題:薪ストーブで重油代200万円節約)より。情報は掲載時のものです。
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