長崎・立石靖司
群れが弱いと被害が出る
2006年に世界からミツバチが消えていると知って興味がわき、日本ミツバチの飼育を始めました。当初はネット情報を頼りに重箱式飼育(木箱を積み重ねた巣箱で、巣枠・巣板を使わない)をしましたが、3年間はまったくうまくできませんでした。
そんな様子を見た父母から「日本ミツバチも、西洋ミツバチ飼育のような巣枠式のほうが継続できるのでは」と薦められました。50年前、この地域では多くの家々で日本ミツバチを飼っていましたが、父母は当時の重箱式の限界を知り、西洋ミツバチを巣枠式で20群ほど飼育した経験があったからです。
私は巣枠式に切り替えてから、多い時は151群を飼育したこともあります。しかし複数群を、移動させずに定置飼育すると、蜜源不足などの要因で群れが弱くなり、スムシ等の被害を受けやすくなることがわかりました。
そこで、地域の蜜源植物の植生や種類などについて調べ、この地域における群数と、私の飼育可能な群数を考え、現在58群を飼育しています。
えひめAIでスムシが死ぬ
日本ミツバチ飼育者にとってスムシ(ハチノスツヅリガ)の被害は大きな悩みです。放っておくと巣板や巣箱が食われてボロボロになり、ハチが逃げてしまいます。私は、初めは市販の西洋ミツバチ用の微生物の予防薬(B401)を使っていました。

次に、この予防薬に使われている菌がバチルス属の一種と知り、同じバチルス属菌として納豆菌があることを思い付きました。市販の納豆をぬるま湯で洗い出し、薄めたものを巣板に噴霧すると、スムシの繁殖抑制に有用性があることを確認していました。
そして私が所属する「九州和蜂倶楽部」のメンバーから、納豆などでつくる「えひめAI」の存在を聞き、いまは年間通じて使用しています。
えひめAIの作り方
(500mlのペットボトルで作る場合)
① 砂糖15g、ドライイースト5g、ヨーグルト25g、納豆0.1粒、お湯(35~40℃)250mlをよく混ぜる。
② ペットボトルに入れ、蓋を緩めた状態で、ペットボトルの保温ホルダーで24時間保温すれば完成。
*『DVDブック えひめAIの作り方・使い方』(農文協、税込1980円)もご覧ください。

▼使い方
- えひめAIを20倍に希釈。スプレーに入れ、巣や巣箱のすみずみまで直接噴霧する。
- 重箱式:巣の天井部分から内部全体に噴霧。底板にもびっしょり濡れるほどかける。外から巣箱全体にもかける。いずれも週1回程度行なう。
- 巣枠式:巣板を引き出してから全体に噴霧。3カ月に1回程度でよい。底板と巣箱の内外には2週間に1回 程度行なう。
えひめAIをかけると、スムシの孵化後間もない幼齢虫には効果があります。ただし、体長3mm以上になると効かなくなります。
ハチのほうは、えひめAIがかかっても、成蜂・幼虫ともに問題はありません。
▼夏は氷水を準備
夏場に噴霧作業をするときは、氷水を用意して作業の前後に噴霧します。するとミツバチの興奮を抑え、逃亡を防げます。これは採蜜などの作業時にも有効で、興奮した熱により巣板が軟化して巣落ちすることも防げます。
強い群れをつくる
集団性(社会性)のミツバチは、個体数が少なくなると、極端に病気やスムシ被害などを受けやすくなります。スムシの繁殖の予防を心がけ、強い群れが育つよう管理することがなにより大切です。
飼育場周辺の蜜源植物の植生・種類・開花時期などを把握し、必要であれば給餌することも大切です。飼育とは「食を司り育むこと」を念頭に置いています。
スムシ害を防ぐ巣箱を作った
スムシ被害の軽減を目的に、私は独自に天空巣枠式巣箱を開発しました。2年間の検証実験を行ない、2020年3月に特許を取得(共同)しました。
構造は、巣枠を巣箱の内部に吊り下げ、巣箱との接触を最小限にすることで、幼虫が巣板に到達できないようにしました。また、巣箱の前後2カ所に巣門を作って、ハチが巣クズやスムシを掃除して排出しやすくしました。


今後はアカリンダニも
近年、日本ミツバチ飼育を趣味とする方が多くなっています。最大の楽しみは採蜜と分蜂群の捕獲ですが、多くの飼育者が毎年春に分蜂群を捕獲したものの、無理な採蜜や不適切な管理等によって、冬にはそのほとんどを消滅させているのが現状です。飼育者各自が養蜂技術力を向上させなければ、自然群の分蜂群乱獲による自然破壊にも繋がりかねません。
今後は日本ミツバチを楽しむために、巣枠式飼育・・・
今月号のイチオシ記事
2021年6月号の試し読み
農文協 編
材料はすべて食品。納豆・ヨーグルト・イースト・砂糖から、誰でも簡単に手作りできる発酵液。中には微生物や酵素がいっぱい。田畑では「病害虫が減って農薬も減って、野菜がおいしくなる」「土着微生物が殖えて土がふかふかになった」と農家に好評。台所やトイレやペットのニオイ消し、油でギトギトの換気扇掃除、お肌つるつるになる入浴剤、川や配水管の浄化など、暮らし場面でも大活躍。月刊「現代農業」の特選記事に、新しい取材記事も加えて再編集。付属DVDでは「超簡単!24時間製造法」や、農家の使いこなし術をたっぷり収録。DVD50分付き。
農文協 編
「ハチは刺すから怖い、見つけたらすぐ駆除!」と思っていませんか?著者は祖父の代から養蜂業を営む家に育ち、18歳からはじめた地域のハチ駆除歴は40年でのべ1500巣以上。アシナガバチをレスキューし、無農薬畑のイモムシ駆除の益虫として移住させた数は5年間で140群以上にもなります。また「巣は駆除しなくてもいい時季がある」「刺されやすい動きと服装がある」など、約30種のハチにまつわる知恵を満載。ハチの生態を知り尽くし、ハチをこよなく愛する著者による、目からウロコの「ハチとの付き合い方」を紹介します。