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カンキツ 接ぎ木の裏ワザ!? カッターナイフで夏の剥ぎ接ぎ

春じゃなくても活着良好 夏に高接ぎ!

カンキツ 接ぎ木の裏ワザ!?
カッターナイフで夏のぎ接ぎ

和歌山・長谷ながたに光浩

マークは本誌192ページに用語解説あり
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筆者(60歳)。ジャバラ、レモン、ハッサク、温州ミカンなどのカンキツ2haを栽培

3~4月は加工の繁忙期

 はじめまして、紀伊路屋(長谷農園)の長谷光浩です。

 私は和歌山県有田郡広川町でミカン農家を営む傍ら、ミカンジュースやジャム、カンキツ類の果皮粉末などを開発、加工、販売する6次産業化に取り組んでいます。

 カンキツ類の品種の流行は、かつてのハッサク、イヨカン、ネーブル、宮本早生、楠本早生など、およそ10年サイクルで変わっていると感じます。現在、当園では花粉症の人にもよいとされるジャバラが大変な人気です。

 ネライ目の品種を増やしたり新品種を試すために、毎年50~100本の樹を高接ぎ(切り接ぎ)更新してきました。ところが、切り接ぎの適期とされる3~4月は加工の繁忙期と重なります。

樹が弱らないよう分施する

 当園では、カンキツ類の収穫が11月から始まり2月で終わりますが、続く2~4月は1次加工・製品化・販売と加工部門の繁忙期が続き、倉庫や加工場での作業に追われます。

 そのため接ぎ木作業が少しずつ後回しになっていき、ここ数年は6~7月に、梅雨の晴れ間をぬって作業するようになりました。ちょうど前年の貯蔵養分が消費されてしまった時期ではありますが、問題なく接げています。

 とはいえ、高接ぎはカンキツの樹にとっては大手術かと思います。養水分をしっかり引き上げ、樹が弱らないように、元の樹の力枝ちからえだを残しておき、肥料も多めに与えておきます。

 温州ミカンの場合は、10~11月の秋肥でJA有田のミカン配合肥料をチッソ成分で10~13kg/10aやっておき、6~9月にかけて月1回の間隔でチッソ3kg程度ずつ分施しています。根に負担をかけないよう必要な分を少しずつ吸わせるイメージです。

 また、梅雨が明けると陽射しが強くなり、台木の樹皮が日焼けするので、ホワイトンパウダーを用意して、接ぎ木後すぐに台木に塗ってあげます。

穂木の裏面から活着が進む

 ところで、私は地元の農業高校の柑橘園芸科出身です。接ぎ木の仕方も一通り習いましたが、「成功させねば」と緊張して手が小刻みに震えてしまい、「お前は接ぎ木に向いてない」といわれたこともありました。

 しかし、接ぎ木名人である私の叔父や地域のさまざまな方から教えてもらい、自分に合う部分を取り入れることで、今ではほぼ100%成功するようになりました。

 活着率が上がった一番の要因は、趣味的にカンキツを育てている兼業農家の知人から教わった手法を取り入れたことでした。下の写真のように、台木の側面に2本の切り込みを入れることで、台木の皮をペロンとめくります。すると、形成層で皮が引き裂かれ、台木の内側・外皮側の両面で剥き出しになった形成層が、穂木の形成層としっかり合わさるのです。


剥ぎ接ぎは裏から活着が進む

 調べてみると、皮の硬いクリなどでも「剥ぎ接ぎ」として実践されている方法のようです。外皮は樹液の流れている時期でないとうまく剥けないので、「夏の接ぎ木」に向くやり方でもあると思います。

 活着後のようすを見てみると、下の写真(「活着して1年後」)のように穂木の表面(台木の内側)からだけでなく、裏面(台木の外皮側)からもぐんぐん活着が進み、外側から包み込むようにカルスが巻いています。そのため、穂木の裏面は一般的な方法よりも鋭角に削り、接触面をなるべく広くとるのがポイントです(上図右「穂木」)。裏からも活着させる……、まさに接ぎ木の「裏ワザ」ですね。活着後の芽の伸びもとてもよいと感じます。

裏面でも活着が進み、カルスが穂木を包み込むように巻いている

カッターナイフで十分できる

 当初は片刃や両刃の接ぎ木包丁を使って剥ぎ接ぎしていました。しかし、接ぎ木包丁は切れ味がとても重要で、毎日の包丁研ぎにずいぶん時間をとられました。とくにシーズン初めはサビがあったりもするので、ひたすら丁寧に何本も研ぎます。半日仕事になることもありました。

 あるとき、カッターナイフならどうかと、穂木を削ってみました。少し切れ味が劣るものの、ほぼ思い通りに削れます。台木にもカッターナイフで切り込みを入れると問題なく皮剥ぎでき、接ぎ木包丁と遜色ないくらいによく活着するではありませんか。

 なんや、カッターナイフでもできるやん--。これなら、刃先を折るだけで切れ味が復活するし、替え刃も用意できます。私は毎年、穂木を2~3kg使っていますが、替え刃が1枚あれば十分です。

 剥ぎ接ぎは、台木を深く切り込む必要がないので、カッターナイフとの相性もよいと感じます。特別な道具も技術も必要なく、接ぎ木が苦手な方でも失敗なくできるはず。この方法で、カンキツ農家の皆さまがムリなく品種更新でき、儲かる農業経営の一助となれば幸いです。

(和歌山県広川町)


この記事には続きがあります。本誌166~173ページをぜひご覧ください!

記事といっしょに 編集部取材ビデオ


[ことば解説]

形成層(けいせいそう)
 樹皮と木部の間、導管と篩管の間にある層。細胞分裂が盛んで枝や茎を太らせる場所。接ぎ木では、穂木と台木の形成層を合わせることが重要。