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【厄介な多年生雑草】アゼ・法面は覆っちゃえ 雑草抑制ネットで草刈り無用のむらづくり

岐阜・酒井義広

農文協が運営する農業情報サイト「ルーラル電子図書館」で人気だった現代農業の過去記事より、すぐに実践できる情報を毎月1本ずつ公開(期間限定)します。

今回のテーマは、畦畔や畑に巣食うスギナ、セイタカアワダチソウ、ヤブガラシ、クズなどの「多年生雑草」をどうするか。放っておけばシカ・イノシシのエサ場や潜み場になります。もちろん草刈りは大事ですが、重労働に加え、高齢化でなかなか厳しい自治体もあります。記事のような、「雑草抑制ネットを設置し、管理する」というのもひとつの手です。

【厄介な多年生雑草 アゼ・法面は覆っちゃえ】雑草抑制ネットで草刈り無用のむらづくり
「雑草抑制おまかせネット」を複数サイズ張り合わせた畦畔。撮影時の4月はゆとりがあるが、夏場はネットの下で草が繁茂して膨らむ。ネットの端にストッパーを約1mおきに打って固定する

獣害対策にも草刈りは必須

 私は兼業農家で、県職員として45年間農業行政に関わりました。退職前の10年間はおもに鳥獣害対策の普及指導を担当し、現在も農水省の農作物野生鳥獣被害対策アドバイザーを務めています。

 私の住む宮地集落は郡上《ぐじょう》市和良《わら》町の中央部にあり、戸数は52、水田面積は約20ha(140枚)です。50年ほど前に農地基盤整備が実施され、上下水道や光ファイバー等の生活環境も整備されていますが、相変わらず過疎・高齢化・担い手不足が課題の限界集落です。将来的に崩壊・消滅集落にならないようにと、農業集落の存続要件の基本「草と獣との闘い」を、中山間地域等直接支払を活用しながら集落ぐるみで続けてきました。

 とくに草対策は重要です。畦畔に獣の侵入防止柵「猪鹿無猿柵」(電気柵とワイヤーメッシュなどの併用。2012年5月号)を設置した後も、漏電防止には柵下の除草が必要です。

シートは安いがめくれやすい

 ところで集落の水田の畦畔や、農道・県道・用排水路の法面の幅は、最大で8mもあります。その草刈り作業は重労働で、おもに米農家が長年刈り払い機で行なってきましたが、高齢化と担い手不足で年々厳しくなりました。

 そこで15年ほど前から、雑草抑制ネットや防草シートを、水田畦畔や各法面、獣の侵入防止柵の下に設置して、草刈り無用の里づくり(里普請)を始めました。

 当初使用した雑草抑制ネットは、メーカーに開発依頼した景観良好なグリーンのもの。集落の法面の8割ほどに設置して、実証を行ないました。その後、ネットより低コストでやはりグリーンの防草シートも開発して設置。しかし、これらのネットやシートは耐用年数が短いため、何度も張り直しが必要でした。

 また防草シートだと風が通らないので、ピンで留めてもめくれやすいことが欠点でした。ピンを多く打ち込めばよいのですが、費用がかかってしまいます。

耐久性のあるネットを開発

 現在設置しているのは「雑草抑制おまかせネット」(大一工業(株))という、メーカーに耐久性を改良・開発してもらったネットです。設置後10年以上経過しても、立派に雑草を抑制しています。また、ネットなので風が通り、めくれません。中で雑草は生えますが、突き出ることなくそのまま枯れます。

 ただし、ネットの端に打ち込んだピンの周りは、地面とネットの間にゆとりがないため、雑草がネットの下で丸まらず突き出やすいことが欠点です。当初はそれを刈り払い機で刈る時に、ネットの破損事故が多発しました。

 そこで、1m幅の商品しかなかったところを、3mや4m幅のネットを開発してもらい、ピンの打ち込み数を減らすことができました。またピンを打った部分に幅の狭い防草シートを敷き重ねて草を防いだり、部分的に除草剤を散布したりするようになりました。

ネットとストッパー。ネットはほつれにくいラッセル網地(1×50m 1万2000円前後)。ストッパーはカエリがあって抜けにくい(300本 1万円前後)(大一工業(株)提供)
ネットとストッパー。ネットはほつれにくいラッセル網地(1×50m 1万2000円前後)。ストッパーはカエリがあって抜けにくい(300本 1万円前後)(大一工業(株)提供)

防草シートはマルチ代わりに

 あまり使わなくなった防草シートですが、隙間なく張れば草は完全に生えなくなります。そこで、集落の体験農園でポリマルチの代わりに活用しています。5年はもつのでゴミ処理に困りません。

 景観作物として畦畔にシバザクラを植える時も、防草シートを張って切れ目を入れて植えると、除草作業を省けて、生育も促進します。

シバザクラロード。こちらは多面的機能支払を活用して購入した防草シートを敷いてから植えた。風でめくれることはない
シバザクラロード。こちらは多面的機能支払を活用して購入した防草シートを敷いてから植えた。風でめくれることはない

草刈りが獣を呼ぶ

 近年、水田の畦畔を草刈りすると、刈った雑草が堆肥化してミミズが繁殖し、ミミズを狙ったモグラが穴を開けたりイノシシが掘り起こしたりして、畦畔の崩壊や水漏れの原因となっています。また草刈り後に伸びた若い雑草が、シカの大好物のエサとなっています。ネットやシートによる法面保護は除草作業の省力化だけでなく、獣害対策にもなるのです。

 高齢化した住民で毎年、苦労して用排水路を管理していましたが、いまは砂利の堆積も少なく、作業が大幅にラクになりました。

耕作放棄地がゼロになった

 集落ぐるみのネット・シートによる雑草対策と獣害対策の結果、農地の借り手(担い手)の作業も負担が軽減し、集落の農地の利用集積は70%以上になりました。そしてなんと、鳥獣のエサ場や潜み場でもある耕作放棄地は、現在存在していません。

 この15年あまり、鳥獣害対策研修会で県内外の農業集落や地域を現地調査していますが、耕作放棄地が目立ってきました。集落の草原化は鳥獣害の多発につながり、生活環境保全も厳しくなります。ぜひ、宮地集落の「令和の里普請」を参考に、集落再生を図ってほしいものです。

*月刊『現代農業』2021年7月号(原題:雑草抑制ネットで草刈り無用のむらづくり)より。情報は掲載時のものです。

WEB連載「ルーラル図書館だより」