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〈地力チッソを生かす〉地力チッソを測って、肥料代も燃料代も節約できた

鹿児島・下津皓平

 大学卒業後、志布志市にある農業法人(株)さかうえに入社し、5年目になります。露地でケール、キャベツ、ジャガイモ、飼料用コーン、牧草、施設でピーマンを栽培。私は主にキャベツ生産に携わってきました。

 今回のテーマ(埋蔵チッソ)の結論からいうと、「土中の地力チッソを測定して、その量が多ければ、化成肥料をやらない、もしくは減らしても品質や収量に影響はないのではないか」。なぜこのような考えにいたったのかを説明します。

チップバーンの原因はチッソ過多!?

 キャベツを栽培していくなかで問題となったのが、チップバーンなどの内部障害です。特に加工用は、出荷して取引先に届いてから判明し、ご迷惑をかけてしまうこともありました。

 チップバーンの原因はカルシウム欠乏だといわれています。土壌分析の結果に合わせて石灰を投入していましたが、発生はおさまりません。圃場内の石灰が不足しているわけではなく、作物が吸収できない状態になってしまっているのではないかと考えました。

 原因として想定したのは、圃場の乾燥、苦土やカリなど他成分とのバランス、そして「チッソ過多」です。輪作との兼ね合いで、少なくとも年に1回は牛糞堆肥を10a当たり4t投入していたので、「キャベツにとっては圃場が肥えすぎているのでは?」と思うようになりました。

ほとんどの圃場で地力チッソが多かった

 それまでCECや塩基類などの分析はしていましたが、土の中にあるチッソの量はそれほど気にしていませんでした。鹿児島県農業開発総合センターが地力チッソを簡易に測定する方法を開発したので、縁あって試してみました。

 結果は基準値が3mg/100gのところ、高い圃場で5mg/100g以上。ほとんどの圃場が基準値より高いことがわかりました。そんな状態でさらに化成肥料を施用していたので、チッソ過多だったことが明らかになりました。

地力チッソの測定では、水質検査キットの「パックテスト」を利用。詳しくは本誌p48〜

無施肥でも収量は落ちなかった

 去年の秋から今年の春にかけて、地力チッソが多い圃場で試験をしました。同じ品種、同じ定植日で、通常通り施肥する「慣行圃場」、元肥なしで追肥のみの「試験圃場①」、元肥も追肥もやらない「試験圃場②」の三つを用意し、生育状況や品質、収量への影響を観察。

 生育初期は試験圃場①②ともに慣行圃場より葉がやや小さめではあったものの、葉数は同じでした。結球が始まる頃には、慣行圃場と変わらない大きさまで生長し、結球後からはほとんど違いがありませんでした。玉の締まり具合も問題なく、減肥しても品質、重量ともに十分。収量は慣行圃場が10a当たり5.5tだったのに対して、化成肥料なしの試験圃場②は5.6tで、ほぼ変わらないどころか、むしろ多いぐらいでした。慣行圃場でも試験圃場でもチップバーンは発生しなかったため、まだ確実なことはいえませんが、地力チッソの測定値に合わせた減肥は可能だということはわかりました。

地力チッソが多い圃場でキャベツの生育を比較

10月上旬定植、1月中旬撮影。元肥と追肥で化成肥料をまったく施用しなくても、通常施肥と同じように育った。収量は無施肥のほうが多かった

肥料代高騰の今だからこそ

 肥料代は慣行圃場で10a当たり4800円ほどかかりましたが、試験圃場①では1200円で75%、試験圃場②では100%、コストを削減できました。また、散布するための燃料代や人件費も入れると、もっと節約できていることになります。

 化成肥料や燃料の値段が高騰している今、減肥によるコストへの影響はより大きなものになってくると思います。今年の見積もりでは、肥料代は前年の2倍以上に上がり、慣行圃場だと10a当たり1万400円となりそうなので、生産者としては大きな痛手です。

 私個人としは、地力チッソが基準値より高ければ、元肥はいらないのではないかと考えています。元肥なしで定植し、生育状況を見て、必要そうなら随時追肥を施すことが、最小限の肥料で最大限の収量を得る栽培体系なのではないでしょうか。

地力チッソを生かすには、堆肥と微生物

 もとから土中にあるものをうまく利用するためには、定期的に堆肥を投入し、微生物が豊富で地力の高い畑にする必要があります。地力チッソはそのままでは作物が吸収できません。堆肥の投入により、微生物が働きやすい環境を作ってあげることで、土中にある地力チッソを生かせるのです。そして、土壌分析をして、ムダな施肥をなくせば、減肥につなげることができます。

 肥料が高騰して身近な有機質資材が見直され始めている今、堆肥の利用と土壌分析の活用がこれまで以上に重要になってくると感じています。

(鹿児島県志布志市・(株)さかうえ)

10月号では、鹿児島県農業開発総合センターが開発した測定キットを使った地力チッソの測定方法のほか、電子レンジを使った簡易評価法なども紹介します。

この記事の続きは2022年10月号をご覧ください
現代農業2022年10月号
2022年10月号

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