サラリーマンから農家へ転身した花島さん。資材や技術に投資し続けた結果、売り上げは増えたものの利益は上がリませんでした。今、経営改善に取り組み新たな知識を身につける!
千葉・花島啓介

がむしゃらにやってるのに......
千葉県我孫子市で、年間約2.2haのネギ専作経営をしています。出荷先はJA、学校給食、地元の飲食店・個人顧客・青果店・直売所です。
東日本大震災を機に思うところあってサラリーマンに見切りをつけ、縁あって農業へ。地元農家での研修、海外農家へのホームステイ、県立農業大学校での研修を経て、新規就農したのは2018年4月、43歳のときでした。
就農当初は、技術や経験が足りない自分が人の倍は働くのは当然と思い、毎日12時間以上、ときには夜中の1時2時ごろまでがむしゃらに働き続ける日々……。
そして、未熟な技術をカバーするために、多少高くてもいい資材・機械・道具を使いまくって品質や収量を高めようとしていました。しかし、そんな小手先のごまかしが都合よく通用するはずもなく、B品率は高いままで、売り上げは伸び悩んでいました。
なぜか、金が残らない
新規就農4年目の21年には、久しぶりに到来した大きな相場の波に乗れたことで、ネギの売り上げ高で1530万円、新規就農者向けの補助金などを合わせると1780万円の農業収入を計上するまでになりました。ところが、ふと違和感を覚えます。
「あれ? こんなに売り上げがあるのに、いまいちお金がないのはなんで? なんだか、儲かってる気がしないんだけど……?」
青色申告などのため、クラウド会計ソフトのfreeeを使い自分で帳簿を付けていましたが、わからないことがあればJAの無料税務相談を利用していたので、帳簿の付け方自体が大きく間違っていることはないはずです。
何かがおかしいのは間違いないが、何がおかしいのかさっぱりわかりません。考えてもわからないから、とにかくもっと頑張るしかない!と、モヤモヤを抱えたままがむしゃらに働く日々に戻っていきました。
売り上げではなく利益を上げる
そして23年夏、あの猛暑がやってきます。私のネギ畑は、猛暑とゲリラ豪雨の往復ビンタでボロボロです。雑草と病気、大発生したヨトウムシが追い打ちをかけて売り上げが激減。手持ちの現金がみるみる減っていって、畑の真ん中で夫婦で泣きました。
ここでようやく気付きます。
「どうも、ただひたすら頑張るだけじゃダメっぽい」
お金の問題を解決するには会計を勉強するしかないと思い、書籍を探すうちに『複式簿記を使いこなす』に出会いました。さまざまな農業経営の事例が満載で、複式簿記がどのように経営改善に役立つかがイメージしやすく、文章もわかりやすい。複式簿記の概念を理解することができました。そのうえで悟ったのは、
- 重要なのは利益であって売り上げではない
- 事業存続のためには利益よりも現金残高が大事
ということです。
私は「売り上げだけ」を追いかけて利益をリアルタイムに把握していなかったことで、「変動費」「固定費」「限界利益」の改善が必要なことに、気付くことができていなかったのです。加えて現金残高の推移に気を配っていなかったので、現金が枯渇しかけて初めて慌てて資金繰りに奔走する、ということを繰り返していました。

利益の構成要素ごとに対策
利益を上げながら現金を枯渇させないためにはどうしたらよいか、複式簿記をベースに考えると、やるべきことはシンプルでした。
①売り上げ高を上げて、限界利益(利益の源泉)を上げる。
②変動費を下げて、限界利益(利益の源泉)を上げる。
③固定費を下げて、限界利益(利益の源泉)から差し引いたあとに残る利益を増やす。
④資金繰り表を作成することで、将来の現金の増減をあらかじめシミュレーションし、現金の枯渇を予防する。
それぞれについて、以下のように取り組んでいます。
①「損益分岐売り上げ高」を計算し、そこに目標所得を加えた目標売り上げ高を設定(次ページ左)。その目標を達成するための行動として、
▼栽培技術を向上させ、秀品率・歩留まりを上げて、単位面積あたりの収量を増やす。
▼新規販路の開拓により、取引単価を引き上げる。→地場産にこだわる地元青果店・食品加工会社と取引開始。
▼市場価格の上下動を吸収し、安定した売り上げを維持するため、固定価格での取引量を増やす。→学校給食・加工品向けの出荷増。地元青果店・食品加工会社とは固定価格で取引。
②「変動費比率」を押し上げているものを洗い出して改善。具体的には、
▼明確に効果を実感できる資材以外は使用中止。元肥と追肥の構成を見直して、栽培面積全体で約90万円の費用削減(下の図「肥料見直し」)。
▼出荷経費自体を削減。→段ボール、運賃、委託販売手数料がかからない取引先を開拓。前述した至近の地元青果店や食品加工会社へ通い、コンテナで直接納品。迅速な対応や密なコミュニケーションで受注量拡大中。
③支出を精査し、ムダを省く(機械はなるべく中古を購入するなど)。
④月に最低1回は資金繰り表を更新。将来的には毎週更新して、より精度を上げていきたい。
市場出荷の見直し

肥料の見直し


前向きに仕事に取り組める
複式簿記を理解することで、何が問題でどう改善する必要があり、そのために何をすればいいのかが明確になりました。あとは実現するだけです。
やることが明確で、迷いが生まれようがないから、やらないとしょうがないよねという気持ちになります。厳しい経営状況ながらも自分に対しても他人に対しても言い訳をしなくなり、前向きに仕事に取り組むことができるようになりました。
今はおもに損益計算書(2025年3月号p264)の改善にとどまっていますが、今後は貸借対照表の内容を向上させて財務体質を強固にし、金融機関から設備投資への融資を受けやすい財務状況を作って、事業を安定的に拡大していきたいと思っています。
(千葉県我孫子市)
『現代農業』2025年3月号「複式簿記を読み解く・活かす」のコーナーには、以下の記事も掲載されています。ぜひご覧ください。
- 月々のお金の流れがわかる、売価設定の根拠にもなる 伊藤賢一
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