トマトやメロンの夏秋栽培では、ハウスを休ませず緑肥を取り入れるのが難しいと言われています。この記事は、北海道でメロンやミニトマトを栽培している寺坂祐一さんの実践です。
北海道・寺坂祐一

緑肥を栽培できる期間が短い
北海道中富良野町で、3.2haのハウスでメロンやミニトマトなどを栽培しています。畑は泥炭地に粘土を客土した水田土で、扱いが難しく以前はカチカチ・ゴロゴロの土でした。そこで、土壌改良のために緑肥を導入しました。
北海道は作物が栽培できる期間が短いため、休閑せずに緑肥を導入しようとすると時間的にも労力的にも厳しい。私の地域は10月上旬に霜が降り、11月になると雨か雪で天気がぐずつき、12月に根雪となって3月いっぱいまで残ります。昔、栽培規模が小さかったころは、メロンの収穫後すぐに片付けて8月中旬までに緑肥としてヒマワリやエンバクを播種、10月上旬にすき込むという理想的なスケジュールで緑肥を導入できていました。ですがハウスが34棟に拡大した今、収穫期は忙しく秋までにメロンハウス内の資材や残渣を片付けることが不可能。しかもメロンが終わったらすぐにトウモロコシの収穫・発送が始まるので、メロンハウスを片付けられるのは9月中旬からになってしまい、エンバクの播種時期を過ぎてしまいます。
越冬ライムギが作業体系にピタリ
そんなとき、先輩から富良野地域で流行り始めていたライムギ緑肥の越冬栽培を教えてもらいました。「これならメロンに緑肥を導入できる!」と当農園も実践することにしました。
北海道でも秋遅くまで播ける極晩生ライムギ「ウィーラー(R―007)」を使っています。越冬性に優れていて雪下での根腐れ病にも強く、春に融雪するとグングン伸びてくれます。発売元の雪印種苗によると、越冬栽培での播種期は9月中旬から下旬となっています。私の体験では10月上旬まで播種OK。秋にハウスのビニールを剥いで外気にさらしても積雪前に草丈が20cmほどまで生育するので、播種が遅れても安心です。


春定植
早春、草丈20cmで早めにすき込む
早いハウスではメロンは3月から定植します。そのため、1月下旬からハウスにビニールをかけて雪を融かすと、小さく雪の下で越冬していたライムギの新葉が出て草丈がグングン伸びてきます。草丈がありすぎると乾物重量が多すぎて、すき込んだあとにガスが発生します。このガス害(根傷み)が怖い。
そこで当農園では、3月上旬頃、草丈が20cmほどになったら除草剤(ラウンドアップ)をかけて緑肥を枯らせます。枯れてライムギの茎葉に含まれる水分が飛ぶので畑の乾きがよくなるし、分解がよく進む感覚もあります。ライムギが枯れてメロンハウスの土壌が適切な水分まで乾いたら元肥を入れて緑肥と一緒に耕起。マルチを張ってハウスを閉め切り、温度をかけて分解を促します。できれば定植10日前、遅くても7日前にはマルチ張りまで終わらせたいところです。

夏定植
草丈を伸ばして太陽熱処理
当農園は抑制栽培で7月定植のミニトマトもつくっています。このハウスでは雪融け後はそのままライムギを伸ばし、穂が出るまで生長させて乾物重量を確保します。定植1カ月前(6月上旬)にハンマーナイフモアで粉砕し、10a当たり米ヌカ600kgと硫安20kgを散布してロータリですき込み、水をたっぷりかけて透明マルチで被覆。ハウスを閉め切って約1カ月間太陽熱処理をします。40°C以上の地温で分解・発酵することで、微生物量が一気に殖え、団粒の発達が加速します。
定植10日前にはマルチを剥がして土を乾かし、元肥を入れて耕します。メロンハウスよりも高温で分解が進むので、定植後のガス害による根傷みを防ぐことができます。
根圏微生物がびっしり
遅播きできるので始めたライムギ緑肥ですが、エンバクよりも根量が多いことがわかりました。私は地上部よりも根の効果に注目しています。
- ライムギの根から分泌される滲出液(糖)に、根圏微生物が大量にとりつく。
- 根圏微生物はライムギの毛根に肥料養分を提供する。
- 大量の根圏微生物が粘着物質(粘着性の高い接着剤みたいなイメージ)を放出する。それが微細な鉱物(土)同士をくっつけて、団粒化が進む。
上の写真を見ると1mmに満たない根に、約10mm幅で団粒構造ができた土が付着しているのがわかります。それだけ根圏微生物が殖えて土壌改善効果が高まっていることを示しています。
土がふわふわで耕耘もラクに

緑肥をしっかり導入できるようになって、土も作物の生育も変わりました。
ライムギ緑肥を3年ほど続けると、カチカチだった粘土質の畑がふわふわな土になりました。すると、トラクタによるロータリ耕がラクになります。エンジンやPTOを上げずとも、どちらもゆっくり回転させて耕すだけで、土がふわふわサラサラに仕上がります。ロータリの爪も減りにくく、長持ちするようになりました。
苗を定植してからの活着もよく、初期生育(発根や根張り)もいいので生育管理がラクになりました。生育後半にも差は表われます。以前に比べて最後まで樹勢を維持できるようになりました。もちろん、メロンやミニトマトなどの品質と収量もアップ。連作回避にもなるので、土壌病害や連作障害の発生が極めて少ないです。
ハウス栽培ではつくる場所と品目が固定されているだけに、輪作体系を組むことが難しい。ですが、土づくりの一環として、緑肥の越冬栽培は北国に適した技術だと感じています。
(北海道中富良野町)
この記事の詳細は『現代農業』2024年12月号をご覧ください
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農文協 編
緑肥の種類と選び方、借りた畑の診断に緑肥を使う技術、播種・すき込みのコツや、緑肥を短期間で短く育ててすき込む技術など。