毎年モモの収穫期にはカラスやヒヨドリの被害がみられます。安全かつ放ったらかしにできるカラス対策として、自然分解する綿100%の木綿糸をモモの樹に張り巡らせることで、カラスの被害が1割以下に減少させることに成功!ヒヨドリ対策には廃ホースと針金で作った疑似ヘビを使用し、ヒヨドリの被害をほぼゼロに抑えました。
岡山・田邉 亮
「くらねら果樹園」の田邉亮と申します。サラリーマン時代、偶然食べたモモがあまりにもおいしくて、雷に打たれたような衝撃を覚えました。すっかりモモの魅力と芸術性に惚れ込んでしまい、仕事と併行して耕作放棄地を開墾しつつ独学で勉強したのち、2020年に新規就農しました。
木綿糸は人にも環境にも優しい
毎年モモの収穫期になると、熟れた果実を狙ってカラスやヒヨドリが畑の周りに集まってきます。アナグマ、タヌキ、ハクビシンなどによる食害は多くても1日数十個ほどですが、鳥は集団でやってくるので、対策をしなかった頃は1日100個以上やられたこともあります。
就農当初から周りの田んぼや畑にカラス除けのテグスが張られている光景をよく見ました。しかし、テグスは回収に手間がかかったり、強度があるので身体に絡まると危なかったりします。
安全かつ設置後は放ったらかしにできる方法を考えた結果、手芸用の綿100%の糸を使うことを思いつきました。自然分解する木綿糸ならば、設置後しばらくすると雨風で劣化して地面に落ち、やがて土に還るので回収の手間は不要。身体に絡まっても、ある程度の力をかければ切れるので安全です。
釣り道具があれば1本当たり5分でできる
木綿糸は畑全面に張るのではなく、直接樹に張り巡らせます。毎年5月下旬から袋掛け作業が始まるので、掛け終わった早生品種の樹から順次行なっていき、6月中に終わらせます。
実際の作業では釣り道具を使います。スピニングリールのスプール(釣り糸を巻く部分)を外してから市販の木綿糸を糸芯ごとリールの軸に挿し、竿のガイドに木綿糸を伝わせて竿先まで伸ばせばセット完了。あとは竿を縦横に動かして木綿糸を枝などに引っかけながら樹全体に張り巡らせるだけで、幼木なら1本当たり1分、成木でも5分もあればできます。張り巡らせ具合などにもよりますが、使用する木綿糸の長さは1本当たり数十mほど。そこまでグルグル巻きにせずとも大丈夫です。
体感的な話になりますが、木綿糸のおかげでカラスの被害は1割以下、場所によってはほぼ被害がないモモ畑もあります。木綿糸が切れていたり不自然に絡まっていたりと、カラス(?)が仕掛けに羽根を引っ掛けてから逃げたような痕跡もよく目にします。
ヒヨドリには疑似ヘビが効果絶大
ヒヨドリ対策には、知り合いの農家からおすすめされた「疑似ヘビ」を自作して使っています。
疑似ヘビの材料は、動力噴霧器などに使う一般的なホースと針金のみ。私の場合は、経年劣化して廃棄寸前だったホース(50m巻き)と、モモのセンター支柱などに使うステンレス製の針金の廃棄品を利用しました。
1mほどに切り分けたホースに針金を通すことで、好みの形に固定できるようになります。一方の端にV字の切れ込みを入れて口を作ったり、黒や銀のラッカースプレーで色を入れたり、ペンで目を書いたりすると、より本物っぽくなります。
疑似ヘビは数に限りがあるので、極早生品種の畑から順々に「リレー設置」をします。収穫直前のモモの樹の周りに置いたり、支柱などに巻き付けたりするだけで効果絶大。ヒヨドリは畑に近寄らなくなり、ほぼ被害がなくなります。ただしカラスは学習能力が高いからか、設置後数日経つと慣れてしまい、畑に飛来するようになります。
(岡山県倉敷市)
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農文協 編
施肥、整枝剪定の「樹勢管理」と、摘蕾・摘花/果の「着果調節」を軸に、安定高収のための基礎をていねいに解説。味の不揃い、待ったなしの軽労化対策など現場の課題に、長年の研究・指導の経験から答える。