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【チバッてます! 沖縄雑穀生産者組合】第4話:アワで醸し祈る、沖縄の農耕儀礼

中曽根 直子

雑穀とは、モチキビ、タカキビ、アワなど、主食以外の穀物のこと。五穀米おにぎりやおはぎに入っていることもありますね。雑穀は近年、健康思考や代替肉など持続可能な食料生産という点でも見直され、いま“稼げる”チャンスともいえます。雑穀の産地といえば東北地方のイメージですが、今回の連載の舞台は、タカキビやアワの在来種ものこっている沖縄。雑穀づくりのおもしろさ、島の農家のこと、農耕儀礼などを、沖縄雑穀生産者組合組合長の中曽根直子さんにご紹介いただきます。

*連載タイトルの「ちばる」とは沖縄の方言で「頑張る」の意。よくチバリヨーって聞きますよね

写真4)神酒作りづくり。シンメーナービーという沖縄伝統の巨大鍋で、司時代に彼女たちが仕込んでいたのと同じ方法で神酒づくり作りを教えて下さいました

沖縄雑穀生産者組合を立ち上げたきっかけ

かつて全国各地で雑穀が作られていたように、沖縄にもアワやキビ、ムギなどの雑穀がたくさんあって、中でもアワは祭祀や農耕儀礼・地域の祈りと深く結びついていました。ところが戦後、食生活が急速に変化するとそれらを栽培する人はどんどん減っていきました。そんな沖縄でアワの種子を持っていたのは、農家ではなく、なんと地域の拝みを行なうつかさと呼ばれる祈り手の方々でした。ある意味、アワは神に捧げるものだったからこそ、今日まで種子を残すことができたと言えるのかもしれません。

五穀は聖なる作物で、人々が神に捧げてきたもの。絶対に失ってはならないという想いが強くなり、2017年、沖縄雑穀生産者組合を立ち上げました。
今回は、五穀と儀礼、祭りとの関わりについてお伝えしたいと思います。

映画「スケッチ・オブ・ミャーク」のポスター。この映画は、ロカルノ国際映画祭でグランプリの次に大きな賞を受賞し、世界的な評価を受けた

神の声が聞こえる、夢で神からお告げをもらうなど、不思議な能力を持った神司の女性たちを記録したドキュメンタリー「スケッチ・オブ・ミャーク」。ロカルノ国際映画祭でグランプリの次に大きな賞を受賞し、世界的な評価を受けた作品です。この映画を撮った大西功一監督から、伊良部島の神司・余儀さんと長崎さんを紹介していただきました。

司たちとアワ

写真2)2016年、在来のアワを手に伊良部島の元カカランマ(司)の余儀さん(右)と長崎さん(左)
在来のアワを手にする伊良部島の元司(つかさ)の長崎さん(左)と余儀さん(右)(2016年)

地域の人々の健康や豊年のお祈りをする人のことを沖縄では「司(つかさ)」とか「神司」と呼びます。「スケッチ・オブ・ミャーク」に登場する余儀さんと長崎さんは、私が出会った2016年の時はすでに司の役目を終えて数年が経っていました。司はくじ引きで選出され、継承されてきたのですが、食や暮らしが変わり、祈りの内容と現実社会がそぐわないという状況が起こってきてからは、司を継ぐ人が減ってきて、祈り自体が継続できなくなっている地域が多くあります。わかりやすい例で言えば、五穀を栽培していないのに五穀豊穣の拝みが必要か?という現実と祈りの乖離や、ひとたび司になると神事が忙しくてアルバイトをする時間がなく、金銭的に窮乏、生活ができないといったことから、司を継ぐ人がいなくなっていったようです。映画を見ればそういった沖縄の祈りの現状がわかります。

写真3)ご自身で栽培したアワを手に長崎さん
ご自身で栽培したアワを手に長崎さん

この映画の撮影後、余儀さん、長崎さんの後継者は生まれず、2016年にお邪魔した時には伊良部島 佐良浜地域では神行事は途絶えた状態になっていました。にもかかわらず、彼女たちは神行事で使っていたアワの種子を、自分たちの代で無くしてはならないという想いから毎年タネ播きをしていたのです。これには本当に驚き、感動でした。そのおかげで今、宮古島の在来のアワは絶えることなく、引き継がれているのです。

なぜ、司だったときに彼女たちがアワを作りつくり続けてきたのかというと、それは神に捧げる神酒みき(*)を造るためです。伊良部島にはイモ・ムギ・アワ、3つの五穀の農耕儀礼があり、アワの儀礼の際にはアワの神酒、ムギのときはムギで、イモのときはイモの神酒を造るつくるのだそうです。

以前はアワの神酒は甕で醸していたそうで、発酵中の甕は屋外に置いていたので、甕の前を子どもたちが通るときは「臭い臭い〜」と言って、鼻をつまんで駆け足で去っていたとか。でも、神様へのお供えが終わって、お下がりの神酒をいただくときには、皆「美味しい、元気になる」と、神酒を飲むのを楽しみにしていたそうです。

*この記事中の「神酒みき」とは、アワやムギ、イモなどでつくったアルコール成分のない飲み物のこと

写真4)神酒作りづくり。シンメーナービーという沖縄伝統の巨大鍋で、司時代に彼女たちが仕込んでいたのと同じ方法で神酒づくり作りを教えて下さいました
神酒づくり。シンメーナービーという沖縄伝統の巨大鍋で、彼女たちが司を務めていたときに仕込んでいたのと同じ方法で教えて下さいました
ゆうなの木(オオハマボウ)で作った棒で裏漉しするようす
ゆうなの木(オオハマボウ)で作った棒で裏漉しするようす

ありがたくも、余儀さんと長崎さんから伊良部島伝統の神酒づくりを習うチャンスをいただきました。アワをミキサーで細かくして、熱湯に流し込み、加熱し、ゆうなの木(オオハマボウ)で特別に作った棒で漉したものを醸します。暖かい日なら3日くらいで完成。冬場はもうちょっとかかります。

司さんが自宅の庭で神酒づくりのためアワを栽培していた(石垣島白保にて、2018年)

宮古島からさらに南の八重山諸島でも、聞き取り調査をしてみると、ほとんどの島で昔はアワで神酒をつくっていたことがわかりました。

私がつくったアワの神酒を飲む竹本真良さん(小浜島)
私がつくったアワの神酒を飲む竹本真良さん(小浜島)
石垣島のスーパーでは「ミキ」がペットボトルで販売されていました!時代の流れです
石垣島のスーパーでは「ミキ」(こちらもノンアルコール)がペットボトルで販売されていました!時代の流れですね……

でも今はアワを栽培している人がほとんどいないため、どの島も祭祀でつかう神酒はお米でつくっています。

アワの祭り(種子取祭)

ところで竹富島には600年以上も続くアワの祭りがあるのをご存知ですか?国の重要無形民俗文化財に指定されている超有名な「種子取祭」こそが、アワの祭りです。種子取りとは「シラ(高倉)からアワの種下ろしてくる」という意味で、アワの播種と発芽を願う祭祀なんです。

1921~1946年までの種子取祭を調査した資料によると、その頃は各家庭でアワ(在来種の2種類)とムギ、キビ、モロコシ(タカキビ)の5種類を播いて、播種儀式を行なっていたようです。しかし、戦後間もない頃からこの種播き儀礼は急速に消えていき、現在は、95歳になる前本隆一さんを中心に数名の方が行ない、種子取祭のためのアワを栽培しています。

写真8)前本さんと前本さんが収穫したアワ。ものすごく重たくて、立派でした!
前本さんが収穫したアワ。ものすごく重たくて、立派でした!

昨年(2023年)、前本さんからアワづくりについてインタビューさせていただきました。そのときの様子は沖縄雑穀生産者組合のYouTube「ユバナウレ 〜五穀の祈り〜」で見ることができます。前本さんがこのとき語ってくれたアワでつくる餅「イイヤチ」やタカキビの餅の話は、本当に美味しそうで、ああ、一度でいいから食べてみたいと思っていたのですが、念願叶って2023年11月、30年ぶりの種子取祭で、ありがたくもイイヤチをいただくことができました!

泊まらせてもらったお宅でいただいたイイヤチ
これがイイヤチ。泊まらせてもらったお宅でいただいた

イイヤチは「飯初」と書き、アワともち米、小豆が入ったお餅で、種子取祭のときにしかつくられない特別なものです。竹富島でアワが栽培され続けているのは、島の人がイイヤチを食べたいからと言われているくらい、本当に美味しいお餅でした。小豆が入っているので和菓子のような上品さがあって、甘くないので飽きない。種子取祭は早朝から夜まで続く盛大なお祭りで、皆さん忙しくて食事をつくる暇がない。だから祭りの最中はイイヤチをちょこちょこ切って食べているそうです。

実際、私が泊めていただいた司さんのお宅でも、毎朝、イイヤチを包丁で切ってチンして食べていました。なんて贅沢な朝ごはん!しかも、この司さんのお宅にはよそのお宅でつくられたイイヤチも届いていて、昔ながらの薪で炊いたイイヤチからは少しコゲたような香りがあり、食べ比べもできて幸せでした。

写真10)庭の芸能「マミドー」。軽快な歌に合わせての踊りにちむどんどん(ワクワク)!
庭の芸能「マミドー」。軽快な歌に合わせての踊りにちむどんどん(ワクワク)!

さて、種子取祭の一番の見所はなんと言っても2日間かけて約70演目行われると言われる奉納芸能(舞台で行われる狂言と庭で行われる踊り)。随所に雑穀にまつわる狂言と踊りが登場します。例えば庭の芸能で女性たちが踊る「マミドー」はタネ播きと生長のようすを舞踊で表していて、女性たちがガイジンナー(タネを入れるカゴ)や、鋤やクワを持ち軽快に踊る姿が生き生きとカッコよくてシビレます。

写真11)舞台で行われる狂言「弥勒神」。雑穀にまつわるものだけでなく、組踊「伏山敵討」や、なぜか鎌倉時代の仇討ちを描いた「曽我物語」、組踊「父子忠臣」など、チャンバラ劇と笑いの要素もふんだんに盛り込まれていて、まるで村芝居を見ているような気分に
舞台で行われる狂言「弥勒神」。雑穀にまつわるものだけでなく、組踊「伏山敵討」や、なぜか鎌倉時代の仇討ちを描いた「曽我物語」、組踊「父子忠臣」など、チャンバラ劇と笑いの要素もふんだんに盛り込まれていて、まるで村芝居を見ているような気分に
舞台の奉納芸能で最も重要と言われている演目が、演じ手が家系で決まっている「ホンジャー」と「弥勒神」です。ホンジャーは祭りの統括者で、豊年祈願をし、村の役人に対して奉納芸能の許可を得て開始を宣言する役で、弥勒神は海の向こうからやってくる繁栄をもたらす来訪神です。 この狂言の後には、鉄器の伝来と豊作を祈る「鍛治工カザグ」、荒地を開墾する「組頭フンガシャ」、タネ播きの「世持ユームチ」、作物の収穫を祝う「世曳きユーヒキ」といった具合に畑作の流れに沿った狂言が行なわれ、2日目も同様に「ホンジャー」「弥勒神」を幕開けに、天人(琉球開闢の神アマミキヨ)から種子をいただく「天人狂言」やアワのタネ播きをする「種子蒔狂言」など、五穀にまつわる狂言が披露されます。島の皆さん、本当によくお稽古されていているので見応え十分。興奮しっぱなしでした!
サングルロ
サングルロ

そんな中でも私の一押しは「サングルロ」。なんとこれ、島でフィンという方言名を持つタカキビの踊りなんです。竹富島にはタカキビにまつわる面白い言い伝えも残っていて、その言い伝えとは全く関係なさそうなこの不可思議な衣装と滑稽な動きに思わず笑いがこぼれました。沖縄雑穀生産者組合のインスタグラムに動画がアップされていますので、ぜひご覧下さい。

ホンジャーが持って現れる五穀のステッキ。アワ、芋はしっかり見えますね。他にチカラグサ(オヒシバ【?】)、ススキが入っていて、これはしっかり根を張るようにという意味だそうです
ホンジャーが持って現れる五穀のステッキ。アワ、芋はしっかり見えますね。他にチカラグサ(オヒシバ)、ススキが入っていて、これはしっかり根を張るようにという意味だそうです

穀物が実るとき、「実る」ではなく「稔る」と書きますよね。「稔」を解体してみると「禾(穀物)」を「念」じると書きます。昔の人は、穀物は祈ることで神からもたらされる聖なる作物であると考えていたことがわかります。五穀の祈りと食文化を未来へつないでゆくためにも、アワをはじめとする雑穀そのものを栽培し続けてゆく、これこそが沖縄雑穀生産者組合が目指すところです。

アワの神様を祀っている御嶽。「玻座間御嶽」
アワの神様を祀っている御嶽。「玻座間御嶽」

最終回となる次回(第5話)は、沖縄の神歌に登場する五穀にまつわる予言「赤椀の世直し」についてです。

写真1*高キビタカキビ畑に立つ筆者(波照間島のとんちぇ農園)

中曽根 直子(なかそね なおこ)

北九州市生まれ。五穀料理研究家。沖縄雑穀生産者組合 組合長。

2011年、島野菜と雑穀を使ったヴィーガン・レストラン「浮島ガーデン」を那覇にオープン。沖縄の在来雑穀の復活と種の保存、生産拡大のため「沖縄雑穀生産者組合」を立ち上げる。料理教室や農業イベント(農家と消費者をつなぐマルシェ)、食の映画祭など主催してきた他、沖縄雑穀生産者組合や島野菜の宅配「ベジんちゅ」を立ち上げるなど様々な活動を通して、沖縄の長寿復活に全力投球中。

インタビュー映画のご紹介「ユバナウレ 〜五穀の祈り〜」

昨年夏に撮影したインタビュー映画をご紹介します。

30分程度の短い映画ですが、半世紀以上、五穀栽培に携わってきた竹富島の長老をはじめ、タカキビ栽培をスタートさせた元サトウキビ生産組合長など、島々の農家さんたちが登場します。なぜ、この映画を撮ったのか、詳しくは沖縄雑穀生産者組合のYouTubeに書いてありますので、ぜひ、読んで下さい。インタビュー、面白いですよ〜。

チバってます!沖縄雑穀生産者組合

【チバッてます! 沖縄雑穀生産者組合】

中曽根さんが『うかたま74号(2024年春号)』で、ナビゲーターとして登場しました。沖縄の島豆腐の現状と、おからでつくる「おから味噌」について紹介されています。

うかたま74号(2024年春号)

特集:ちらしずしとおいなりさん/畑があったら、何がしたい?

農文協 編

そだててあそぼう

アワ・ヒエ・キビの絵本

古澤典夫 編

及川一也 編

沢田としき 絵

雑穀類は、長寿食やアレルギーを抑える効果などで注目されている、野性的で栄養タップリのパワフル作物。古代ヨーロッパ人や、お米より古くから縄文人も食べていた大切な主食だった。雑穀の栽培と料理に挑戦しよう。

進化する雑穀 ヒエ、アワ、キビ

新品種・機械化による多収栽培と加工の新技術

星野次汪 著

武田純一 著

ヒエ・アワ・キビを現代に甦らせる、健康機能性と省力機械化栽培最新情報

みうたさんのからだにやさしい雑穀レシピ

ごはんからおかず・スープ・おやつまで

江島雅歌

浸水なし!気軽に、手軽に楽しく使うのがみうた流。キビやタカキビの炒めもの、押し麦のサラダ、ヒエのポタージュ、キヌアのゼリーなど、いろんな食感、おいしく大変身。からだに元気をくれる雑穀8種のレシピ60。