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耕作放棄地で原木マイタケ

山梨県・青栁雄大

筆者(38歳、右)と幼なじみの酒井隆幸(39歳)。マイタケは1株4kgにもなる。適度に日に当てることで黒く色づく

卒業したら村に帰ろう!

 山梨県丹波山(たばやま)村は周囲を山に囲まれ、多摩川源流にあたる小さな村です。子供の頃から山や川や畑で遊んで育ちました。通える高校がないので、高校、大学は一人暮らしをするのが村出身者の常でした。東京での大学時代、幼なじみと飲みながらいつも村の将来について語り合っていました。「あれをやったらおもしろい」「あそこは可能性がある」など次から次へと故郷の景色が浮かび、「2人で帰ろう!」と意気投合していました。

 大学卒業とともに村にUターンし、2人で農事組合法人丹波山倶楽部を設立。まず耕作放棄地を借りて農業を始めました。面積が増えるとともに収穫体験などの観光体験ツアーを開催。いまでは猟師と山を歩くツアーや、秘境の渓谷でのシャワークライミングツアーなども開催しています。

マイタケの虜になった

 さて、村には二十数年前から原木マイタケ生産組合がありましたが、高齢化で人数が減っていました。いっぽう私達は冬場は暇な日が多く、見かねたおじいちゃん達から「暇なら手伝ってくれ」と誘われました。60~80代の組合に20代2人が加わる……今考えたら完全に期待の大型新人でしたよね(笑)。一緒に作業するのは新鮮で楽しく、おじいちゃん達の知恵袋は全部吸収して体で覚えました。

 数年後、私達はマイタケ栽培の虜になっていました。「山のキノコをつくれば売れ残るものなんてない」と聞いた言葉を信じて毎年倍増していたら、村で一番のマイタケ農家になっていました。

常圧殺菌釜で原木を殺菌

 現在売られているマイタケの9割以上は菌床栽培です。天然のマイタケは味・香り・歯ごたえの三拍子揃ったキノコの王様といわれます。原木栽培では天然マイタケの生えるナラの木を使い、天然の環境を林や畑で再現し、天然により近いマイタケをつくります。

 まず11~12月に山でナラを伐採し、1mほどに切って搬出。1月に入ってから原木を15cmに玉切りし、泥やコケを洗浄し、水槽で一昼夜浸水させます。

 吸水させた原木を専用袋に入れ、外気に触れないように袋の口を仮止めしたら、殺菌釜へ入れます。ここが原木栽培のシイタケやナメコ、ヒラタケなどと大きく違うところです。雑菌に弱いマイタケは、原木を高温で殺菌し、清潔な環境で植菌・培養をしなければならないのです。

 殺菌方法には、ドラム缶などを使った煮込み殺菌、常圧釜殺菌、高価な高圧釜殺菌などがあります。私達は常圧殺菌釜を使い、水を張った釜をバーナーで炙って高温の蒸気で殺菌しています。気温や湿度によって釜内の温度は変化するので、蒸す時間は毎度調整します。原木の太さも一定ではないので、釜内での配置も工夫します。しっかり殺菌ができていないと後に響くので気は抜けません。

短木を袋に入れて常圧殺菌釜に入れる

温暖化、青カビとの闘い

 殺菌後、原木の温度が下がったら、いよいよマイタケ菌を植菌します。清潔なクリーンルーム(植菌室)でアルコール消毒をしながら作業します。植菌したホダ木は、温度を一定に保った培養室で保温培養し、6月頃にやっと完熟ホダ木が完成します。

 ホダ木作りは青カビとの闘いです。当初は不良品は少なかったのですが、じわじわ増えてしまいました。温暖化で冬の寒さが厳しくなくなり、青カビが繁殖しやすくなってきたからです。いまはすべての工程の温湿度管理を徹底し、データ化して対応しています。

水はけ具合で伏せ込みが違う

 ホダ木の伏せ込みは7月中旬までに行ないます。林内に伏せ込む方法もありますが、私達は耕作放棄地を利用した畑に伏せ込みます。本来の伏せ込み適地は、半日陰で水はけや通風がよい場所です。しかし耕作放棄地を使うとなるとそう都合よくはいきません。

 そこで畑の環境に応じて、埋め込み方式、覆土方式、苗床方式と変えて、天然マイタケの育つ環境にします。とくに重要なのが土中の水分量です。水はけが悪いと菌糸が死んでしまうし、よすぎると乾燥してやはり菌糸が弱ってしまうのです。

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この続きは2021年1月号または「ルーラル電子図書館」でご覧ください

*月刊『現代農業』2021年1月号(原題:伏せ込み方がポイント 耕作放棄地で原木マイタケ)より。情報は掲載時のものです。

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