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【ミツバチをスズメバチから守れ!】無駄巣の洗い水でスズメバチトラップ

ミツバチを飼うときの悩みといえば、巣箱めがけて襲ってくるスズメバチです。今回は、現代農業2022年5月号に掲載された安藤竜二さんのスズメバチ対策を公開します。安藤さんによると、トラップを仕掛ける時期がポイントなのだそう。

山形・ 安藤竜二

春~初夏に仕掛ける

蜜蓋や無駄巣を鍋に入れ、少量のお湯で洗い、巣に残ったハチミツを搾り出す
安藤さんはミツバチの巣に残ったハチミツでトラップに入れる発酵液を作っている

 スズメバチは発酵した匂いが大好物。弟が経営するさくら養蜂園でも、30年以上前から私が発酵液を作り、スズメバチトラップを仕掛けています。

 トラップを仕掛ける時期は春~初夏です。越冬後、家族を作り始める新しい母バチ(女王バチ)が、まだ群れを持たず1匹で巣材を集め、巣を作り、産卵し、虫を狩って幼虫に与えている季節だからです。働きバチが生まれると、外には出なくなり産卵に専念するようになりますから、この季節をはずしてしまうと意味がなくなってしまいます。

 うちの養蜂場は山形県の朝日連峰の奥山なので季節は遅く、仕掛けられるのは5月初め頃から6月中頃です。働きバチが生まれたことは、6月後半に採蜜をしていると、甘い匂いに誘われて飛んでくるスズメバチの体が急に小さくなるのでわかります。

蜜蓋に残ったハチミツを発酵

 さて、毎年手伝っている採蜜で、私は蜜蓋や無駄巣を切り取る仕事を担当しています。これらは砕いて網の上に載せてハチミツを自然落下させますが、どんなに置いておいても、巣にはベタベタなハチミツが残ります。じつはこの巣に残ったハチミツでトラップに入れる発酵液を作っているのです。

 ネット情報では、日本酒やカルピス、酢、砂糖などを材料にする方法がありますが、私はこのハチミツ発酵水がベストだと信じています。ミードと同じで梅酒に似た芳醇な香りがします。養蜂をしているなら、この副産物を使わない手はないでしょう。

 作り方も簡単です。ハチミツは天然食品の中でもっともたくさんの酵母菌を持っているそうですから、基本的に水で薄めればすぐに発酵します。ただ、その年に収穫したハチミツで作ろうと思うとチャンスを逃してしまいます。できれば前の年に取った無駄巣や蜜蓋を厚手のポリ袋に入れて涼しい所で保管しておき、余裕をもって春前に発酵させるのがいいでしょう。ハチミツには殺菌力があるので常温保管してもカビが生えることはありません。

発酵液の作り方と保管方法

蜜蓋や無駄巣を鍋に入れ、少量のお湯で洗い、巣に残ったハチミツを搾り出す

 まず、無駄巣や蜜蓋を湯洗いします。鍋に少量の水とともに入れて弱火にかけ、ギリギリ手を入れられるくらいに温めます。手で巣をぎゅっと搾り出すようにして洗います。きっとポリ袋の底にも予想以上のハチミツが落ちていますので、それも混ぜ合わせます。

 この湯洗い水(ハチミツ水)を、市販の石油ポリタンクとか焼酎などの大きなペットボトルに入れて、必ず蓋は緩めておきます。うっかり閉めたままにしておくと爆発する恐れがあります。寒い冬に仕込めば、春になる頃には、かぐわしい発酵水ができています。気温が高くなった春なら10日ほどでできるでしょう。設置するまでに香りが変わらないように、涼しい所もしくは冷蔵庫に入れて保管します。

 以前、ハチミツだけを使ってペットボトルに入れて実験した時は、ハチミツ:水の比率は1:1や1:2がもっとも勢いよく発酵し香りもよかったです。なお、水は塩素の入った水道水だとせっかくの酵母菌を死なせてしまうので、湯洗い時はご注意ください。

 注意しなければならないことは、梅酒のような発酵臭がするまで、よく発酵させることです。ハチミツの甘い香りが残っているとミツバチも入ってしまいます。初めて作られる方は設置後、ミツバチが入っていないかの確認は必須です。

広口ビンに入れて金網で蓋

トラップ。発酵水はビンの4分の1ほど入れる
トラップ。発酵水はビンの4分の1ほど入れる。金網を丸めて底 に入れておくとハチ が溺れない。生け捕りしてキイロスズメバチ以外を逃がすことができる

 トラップは、ペットボトルで作ったこともありますが、死骸を取り出すのが面倒なことと、ゴミになることもあり、結局ハチミツ用の広口ビンを使っています。口が広く開いているので香りも外にたくさん出るようです。あんなに口が開いているのに、スズメバチはビンの肩を上がれず出られなくなるのです。

 ただ、大きなガなども入ると発酵液を汚し香りも悪くしてしまうので、スズメバチだけが通れる金網を上部に仕掛けます。また雨水が入らないように、ビンを吊るすヒモに段ボール片などを挟めば雨よけになります。

一口にスズメバチと言っても

 さて、毎年トラップのビンに入るスズメバチの多さを見るにつけ、その効果を信じ、続けておりますが、正直なことを言えば、同時に心が痛むことと気がかりなことがあります。

 第一に、ミツバチを襲わない他のスズメバチの母バチも殺してしまうことです。ミツバチを襲って害を与えるスズメバチは、キイロスズメバチとオオスズメバチだけです。厳密に言えばコガタスズメバチやモンスズメバチ、チャイロスズメバチもミツバチを襲う姿をたまには見かけますが、前者に比べれば比較にならないほどごくわずかです。アシナガバチをおもに襲うヒメスズメバチや、小さなクロスズメバチ、ホオナガスズメバチなどに至っては、1匹もミツバチを襲ってはきません。

 そんなハチ達がトラップに入っていると、私はどんなハチも大好きなので、かわいそうな感情が湧いてしまいます。

キイロを襲うスズメバチも

 さらに、このすべてを捕獲する方法がスズメバチ被害をかえって拡大させてしまうこともあると思うのです。

 たとえば、チャイロスズメバチの母バチは、単独でキイロスズメバチの巣に侵入し、キイロスズメバチの母バチを殺し、自分がその群れの女王に君臨する習性があります。ですから、チャイロスズメバチは捕獲しないほうが、キイロスズメバチの繁殖を減らすことにつながるのです。

 じつはオオスズメバチも、ミツバチだけでなく他のスズメバチの群れも襲います。特に10月は、いろんな虫が寿命を終えるので獲物が少ない季節です。リスクを負ってでも一攫千金を図るようです。10月は翌年繁殖する母バチ達が生まれる季節です。結果的にオオスズメバチは翌年のキイロスズメバチの繁殖を抑える働きがあるのです。

 大自然の奥山なら問題ありませんが、営巣数の少ない人里に近いところでオオスズメバチを捕獲すると、翌年養蜂場を襲うキイロスズメバチが大繁殖する恐れや、近くの住宅街でもキイロスズメバチが繁殖して人が襲われる被害が増える可能性もあるでしょう。

 またスズメバチは、アシナガバチ同様(20年6月号p11、19年6月号p152)、畑の害虫を捕獲する働きも持っています。特にオオスズメバチは、コガネムシのような大型の甲虫も狩りますし、飛んでいるだけで畑の虫が減るともいわれます。ですから人間生活全般においても、一概に駆除だけがすべての解決法だと私は思っていません。

捕獲した一部。スズメバチにもさまざまな種類がいる
捕獲した一部。スズメバチにもさまざまな種類がいる

生け捕りしてより分ける

 若い頃、三重大学生物資源学部のスズメバチの権威、故・松浦誠教授の研究を手伝って、チャイロスズメバチの女王を何度も捕獲したことがあります。その時は、トラップの液面より高く盛り上がるように金網を丸めて入れて溺れないようにして(p221写真)、チャイロスズメバチのみを大きなピンセットで捕まえていました。この方法なら他のスズメバチを殺さずに放すことができます。

 またオオスズメバチなどの母バチが確実に営巣し始めるときに仕掛ければ、養蜂場付近のスズメバチだけを確実に捕獲することができます。

 近頃は、ミツバチの巣箱に取り付けるスズメバチ捕獲器の性能も上がりました。全群にきちんと設置しておけば、キイロスズメバチやオオスズメバチからの大きな被害を免れられます。ミツバチをあきらめたオオスズメバチ達は、そのエリアの、翌春繁殖するキイロスズメバチの群れを襲ってくれるかもしれません。

 以上、トラップでたくさん捕獲できるからといって、無下な設置は問題も含んでいるかもしれないことをお含みいただけましたら幸いです。

*月刊『現代農業』2022年5月号(原題:無駄巣の洗い水でスズメバチトラップ)より。情報は掲載時のものです。

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