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【大地の再生】(動画あり)第3回 草を味方にする風の草刈り

大内正伸(絵と文)

大地の再生

2023年1月に、矢野智徳・大内正伸著による『大地の再生』が発売され、おかげさまで好評につき増刷が決定いたしました。現代農業WEBでは、現代農業2018年10月号~2019年2月号に連載された「空気と水の流れをよくして大地の再生」(全5回)および、季刊地域2021年夏・秋号「大地の再生」について期間限定で公開します。ぜひご覧ください。

屋久島での「大地の再生講座」で風の草刈りを実演する矢野智徳氏。刈り払い機はナイロンコードを用いる
屋久島での「大地の再生講座」で風の草刈りを実演する矢野智徳氏。刈り払い機はナイロンコードを用いる

グランドカバーで裸地に草を生やす

 草を生やせばミカンの木の養分を奪い、風通しを悪くして、病害虫を呼び込む……と考えがちだが、一方で植物の根は通気・通水・保水機能を備えている。「農地が広くなればなるほど、草という自然の機能を取り入れたほうがはるかに有利」と矢野さんはいう。

 除草剤で管理しているミカン園に草は生えていない。また農道も、空気の通りが悪くタイヤによる踏圧もあって草が生えていなかった。空気の通らぬ嫌気的な土壌になると、植物の根が衰弱するので負の連鎖が起きる。コンクリート構造物で仕切られた農地はとくにこの傾向が強いが、「大地の再生」の管理手法で空気と水の通りがよくなれば、草は自然に生えてくる。

 山から採ってきた粗腐葉土・木材チップ・刈り草などの有機物と、炭(熾《お》き炭でよい)をセットにまいておくと、裸地にも草が生えやすくなる。それらがグランドカバーとなって泥はねを防ぎ、表層水の流れを弱めて通気通水機能を高めてくれるからだ。

 炭は多孔質で空気を通し、保水機能を持ち、微生物のすみかになる。それだけでなく有機物の分解過程で出るガスを吸着・放散してくれる。炭は泥をかぶると穴が詰まって機能が落ちる。だから泥漉しとして有機物をセットに使うことで、炭の機能も守られる。

草が風で揺れる高さで刈る

 しかし草を生やせばその後の管理も大変である。伸ばし続ければ当然ミカンの生育に影響が出るし、敷地が広ければその手間も膨大である。そこですすめられるのが「風の草刈り」だ。

 草は風のエネルギーに従順なので、風のエネルギーのかけ方と方向を真似ることで、草がおとなしくなる。逆に地際で刈れば、草は反発するように勢いよく伸びようとし、強根を出す。

 具体的には草が風で揺れる場所・曲がる場所で刈る。いわゆる「高刈り・撫で刈り」にする。

 すると草が再生するとき太い根から分岐がたくさん出て、地中には細根が発達する。草の再生スピードも遅くなるので結果的に地際で刈るよりトータルの作業量はずっと少なくなる。

 ただし風通しや管理をしやすくするために果樹の根元周りとウネ溝、農道・作業道だけは低く(足のくるぶしくらいの高さ)刈っておく。また、草丈に触れるような垂れた下枝があれば、それはせん定して風通しをよくしておく。

ミカン園の作業道に粗腐葉土と炭でグランドカバー
ミカン園の作業道に粗腐葉土と炭でグランドカバー

風の抜け道を作る

 草丈は一様に平らにせず、ブロック状に風の抜け道を作り、その側面はカマボコ状に整える。そうすることで風が滑らかに、均等に流れ、かつ草の中にも一定の割合で風が入りやすい。

 地際で一斉に刈ってしまうと、風が表面をサーッと通り過ぎてしまい、大地に空気が入らず土が硬くなる。そしてある種の強い植物しか根を張れなくなることがある。温度や光環境も急変するので、地面の生き物(クモやカエルなど)たちにも影響を与える。

 どこに風の抜け道をつくるのか? 地面のやや低いところは植物の背丈が普段から風の逃げ道となって低く見えるので、そこを抜くのがいい。雨のときはそこが水脈になるはずで、水脈の上は風の通りをよくするのが基本だ。目標が見えなければ、自分で「ここを抜いたら気持ちよさそうだな」と感じたところを基準にしてもよい。

図解

道具の選び方、使い方

 風の草刈りの場合、手でやるときの道具は普通のカマではなくノコギリ鎌(以下ノコ鎌)を使う。刈り払い機の場合はチップソーではなくナイロンコードを使う。

 理由は、鋭利な刃物だと形成層がすぐに戻るが、この二つを使えば風の引きちぎりを真似た粗い切り口になり、草の再生が遅くなるからだ。また下部の枝葉に養分がまわりやすい。その結果、全体の伸びが遅くなり、表情も穏やかになる。

 ナイロンコードは一つの穴から2本のコードを出しておいたほうが、当たりが強くなって風の草刈りには効果的である(左の写真)。また高刈りすることが多いので、ハンドルは両手ハンドルではなくツーグリップ(ループハンドル)式が使いやすい。

 ノコ鎌は右手(利き腕)だけで持ちスナップを利かせて払うように刈る。草丈がある場合、あるいは茎が太い草を刈るときは、左手で草を束ねて持ち、ノコ鎌を斜め上に引き上げるようにして刈る。このやり方がリズミカルにできると、刈り払い機に近いペースで刈ることができる。風の道を抜くときは、ノコ鎌を縦に振って草を叩くように切ると効率がよい。

 刈り払い機で地際から刈る従来のやり方はエンンジンを回し過ぎる。風の草刈りはその半分のエネルギーで刈れるし、それゆえ残したい植物を見る余裕も生まれる。だからアクセルレバーはバネで戻るタイプのほうが、回転数を微妙に調整できて都合がよい。

風の草刈り・せん定の道具たち

風の草刈り・せん定の道具たち
風の草刈り・せん定の道具たち

風のせん定、つる植物の処理

図解

 長く放置された荒れ地に風の草刈りをするときは、低木のせん定やつる植物の処理も必要になる。

 この場合のせん定は切ることが目的ではなく、風通しを見ることが重要で、「木が呼吸しやすい風通し」を作る。

 道具はノコ鎌より厚みのあるカーブソーがよい。せん定バサミではできない「引き切る」「削ぐ」というやり方で低木の茂みの中の詰まりを開けることができる。いわば「風のせん定」だが、その場所に見合った風が抜けるように、バランスを見ながら叩くようにして葉を落としていく。

 太い枝や幹を切り落としたいときは付け根や地際から切らずに、枝や幹を曲げて(揺らして)みて一番曲がるその中央(しなりの変わり目)で切ると、やはり細根が出て穏やかになる。

 クズなどのつる植物も地際から切ると勢いを増して手に負えなくなる。胸あたりの高い位置で切る。すると次に伸び出すつるは柔らかく優しい。つるは樹冠の空いた部分を覆うことで樹形を代行してくれるのだから、根絶やしにせず共存していい(やがて縮んでくる)。

クズ

*月刊『現代農業』2018年12月号(原題:草を味方にする風の草刈)より。情報は掲載時のものです。

取材ビデオをルーラル電子図書館で公開!

取材ビデオを期間限定で公開中です。「スコップと草刈り鎌でできる裏山の防災」
【動画】スコップと草刈り鎌でできる裏山の防災「点穴」の作り方(『季刊地域』取材ビデオより)

*動画は画像をクリックするとルーラル電子図書館へ移動します。

*動画は会員限定コンテンツです。

\ 書籍情報 /

矢野智徳 著
大内正伸 著
大地の再生技術研究所 編
定価2,860円 (税込)
ISBNコード:9784540212390

造園技師・矢野智徳氏が長年培ってきた環境再生の考え方と手法を、広く・濃く伝える決定版。
「空気が動かないと水は動かない」―独自の自然認識をもとに提唱する新たな「土・木」施工。その手法を、ふんだんなイラストと写真でわかりやすく解説。身近な農地、庭先、里地・里山から始める環境再生技術。

著者

矢野智徳(やのとものり)1956 年、福岡県北九州市生まれ。合同会社「杜の学校」代表。
1984 年、造園業で独立。環境再生の手法を確立し「大地の再生」講座を全国で展開しながら普及と指導を続けている。クライアントは個人宅や企業敷地ほか、数年にわたる社寺敷地の施業も数多い。近年の活動では宮城県仙台市の高木移植プロジェクト、福島県三春町「福聚寺」、神奈川 県鎌倉市「東慶寺」のほか、災害調査と支援プロジェクトとして福岡県朝倉市、広島県呉市、愛媛県宇和島市、岡山県倉敷市、宮城県丸森町、千葉県市原市などに関わる。
 拠点となる山梨県上野原市に自然農の実践農場のほか、座学や宿泊できる施設に、全国からライセンス取得や施業を学びに有志が集う。2020 年「大地の再生 技術研究所」設立。

WEBサイト:大地の再生 結の杜づくり(https://daichisaisei.net/)

大内正伸(おおうちまさのぶ)1959年生まれ。森林ボランティア経験をもとに林業に関わり技術書を執筆。2004 年より群馬県で山暮らしを始め、2011 年、香川県高松市に転居。2020年、自宅敷地で「大地の再生講座」を開催する。囲炉裏づくり等のワークショップや講演も多数。著書に『これならできる山づくり』『山で暮らす愉しみと基本の技術』ほか