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映画『百姓の百の声』制作秘話(最終回)自主上映会のやり方など

柴田昌平

 農文協制作協力の映画『百姓の百の声』(柴田昌平監督)は、おかげさまで全国の映画館を巡り、この号が発売となる2月頭はいよいよ東北地方での公開を迎える。連載最終回は、柴田監督自身の執筆。今後の展開に向けて、気になる自主上映会のやり方も紹介してもらう。(編)

グルメ番組は多いのに、「農」へつながらない

 東京から全国各地へと映画館上映が少しずつ広がり、各地で農家と消費者とを結ぶため、上映後の交流会も開催してきました。これまでの交流会で印象的だったことのひとつが、ナレーションを担当してくれた群馬県のコンニャク農家・遠藤春奈さんが東京の映画館に来たときのこと。妊娠を機に夫の故郷の群馬県に移住し、新規就農して17年という遠藤春奈さん。「一番伝えたかったのは、百姓へのリスペクトが今の日本ではほとんどなくなっていることへの危機感」と話していました。

「テレビは『こっちのスーパーは野菜が1円安くなっています』みたいな報道をする。あれが一番イヤ。あの野菜や果物をつくっている向こうには農家がいて、映画に登場する人たちと同じように、一生懸命工夫をしながら農産物をつくっている。そのことを少しでも想像する力があれば、あんな報道の仕方はしないはずで、今ほど農家へのリスペクトが失われた時代はないと思う」と遠藤さんは満席の観客に伝え、大きな共感を呼んでいました。

 それにしても、「農」にまつわる企画は一般の放送局や出版社で採用してもらうのがとても難しいものです。グルメ番組はこれだけあるのに、「食」から「農」へと掘り下げる記事やテレビ番組は本当に少ないのです。そんななか、ある放送局の報道・編成担当の取締役が『百姓の百の声』を観に映画館に来てくださり、「とても充実した2時間10分でした。なぜか最後に涙がじわっと出てきた。不思議です」とおっしゃったうえで、「非常に大事なことなのに、テレビではほとんど取り上げられず、グルメ観点の番組や報道ばかり……。地元の放送局として、どう担えばいいのか最近よく妄想しております」とのメッセージをくださいました。NHKの最前線のプロデューサーからは、「瑞穂の国ははるか遠くになりにけり……。まさにその通りだと思いました。NHKにいても本当に『農業』は遠いですよね。東京は、東京の視聴率だけをみて番組内容を決めてるので、全然ダメです。NHKの人間が農業から離れてしまって、農業の番組作らないのに、世の中の人たちが農業を〝近く〞感じられるわけないですよね。そのことを突きつけられた2時間でした」。

 映画をご覧になった大手メディアの皆さんが、これから「農」の世界に目を向けてくれることを期待したい。

上映会後の交流会にて。前列中央がコンニャク農家の遠藤春奈さん。
上映会後の交流会にて。前列中央がコンニャク農家の遠藤春奈さん。僕(前列右)が持っているのは遠藤さんのコンニャクジュレ。絶品!

農家と消費者、農家どうし、話せているか?

 上映後の農家と消費者とを交えたトークの時間を繰り返すなかで、僕がもうひとつ感じたことは、農家と消費者との交流の場が少ないだけでなく、農家どうしの交流の場も、じつは多くはないのではないかということでした。作物ごとのJAの部会などはあっても、お互いの生き方や人生哲学をぶつけあうことも含めた意見交換の機会は、案外と少ないように感じました。

 そうしたなか岡山県真庭市では、コロナ禍をきっかけに農家数名が月に1度の読書会を始めました。コロナで人に会えないようになったのはあまりに辛い。せめて月に1度、農家どうしが集まって、それぞれが1カ月の間に読んだ本について、どこが面白かったかなどを語り合う場を作ろうと始めたものでした。「夜間大学」を名乗るこの農家の読書会が中心となって、いま真庭市では映画『百姓の百の声』の自主上映会の準備が進んでいます。農家がまわりの市民に呼びかけて実行委員会を結成。「地域の農について一緒に考える場を作る」ということで、市から助成金を引き出すことにも成功。「どんな上映会にしようか」と実行委員の集まりを重ねることで互いに交流を深め、楽しんでいます。自主上映会は上映する人たち自身が主役。開催までのプロセスこそが楽しくて、映画をひとつの「だし」にしながら、自らの人生哲学や生き方、そして地域への思いを語り合えたらいいなと思います。

映画をきっかけに、あなたに語ってほしいのです

 かつて、瑞穂の国は百姓国でした。百姓国の中に町が点在していました。しかし今や、工業とサービス業を中心とする日本国の中で、百姓国は隅っこに追いやられてしまいました。

 僕が子供だった頃は、食事のたびに「お米を一粒でも残すのはお百姓さんに申し訳ない。目がつぶれるよ」と言われたものです。都市部でも、食卓には百姓たちの姿が目には見えないけれど確実に存在していました。しかし、飽食の現代日本の多くの食卓からは百姓の姿は消えてしまっています。

 いま日本に必要なのは、百姓への敬意の回復。多くの日本国民は、タネを播けば簡単に作物が実ると考えていて、その間のことが想像できません。農業がクリエイティブで歓びにあふれた仕事であることを知らないのです。百姓たちは国土を維持し、景観も守る。農村は、知恵と工夫と共助で乗り切る人を育てる場でもある。……百姓国の復権なくして、日本国の豊かさはない。

 映画『百姓の百の声』は、それを回復するためのひとつのツールでもあります。映画館での上映はほぼ終わろうとしています。これからは、この映画を皆さんそれぞれの地域で上映していただけたら嬉しいです。そして農に携わっていない住民たちも呼び込み、皆さん自身の百姓の暮らしを語ってほしい、人生を語ってほしい。映画に登場するのは百姓国の住民のごく一部。皆さん、ひとりひとりに物語があるはずで、それを語ってほしいのです。

 農家の皆さんがそれぞれに語る自らの体験ひとつひとつが、これからの時代を築くための「百姓宣言」なのです。

(本作監督=プロダクション・エイシア)

*記事後半には、映画をご覧になった百姓たちから僕のもとに届いたメッセージを、ほんの一部ですが、ご紹介しました。

自主上映会の開催マニュアル

①仲間を募る
「上映会を開催しよう!」という想いのある有志を募り、準備や告知などの活動ができる仲間5〜10人ほどでチームを組んでください。
「映画『百姓の百の声』を〇〇町で観る会」などチーム名(主催者名)を決め、上映事務局(プロダクション・エイシア)との窓口になる主担当者を決めます。

②上映目的と予算を検討する
 規模(集客数)などを検討します。関係者限定にするか、一般募集をするか、上映会後にどういう交流会をするか、などをご検討ください。
 上映会開催に必要な費用を把握し(表参照)、その捻出方法(チケット収益/協賛金の募集/助成金の申請など)も考えましょう。地域活性化のための助成金などは、比較的得やすいと思います。

③日時と開催場所の仮予約
 開催日と上映回数、何時からか、などを大まかに決めてください。
 近くで上映設備のある会場を確認してください。自治体施設などで、安く借りられるところも多くあります。
 そして、最終決定をする前に、上映事務局に相談してください。

④上映事務局に相談
 上映事務局の連絡先は表の下参照。事務局では、上映会どうしが近くてバッティングしないかなど、トラブルが起こらないよう調整します。

⑤日時と上映場所の正式決定

⑥助成金や後援などの依頼
 集客アップのために、上映会のテーマに賛同していただけそうな団体に後援をいただくことをおすすめします。後援が付くと、上映会への信頼感が高まる・宣伝活動がしやすくなる・後援団体の関係者にも宣伝効果が見込める、といったメリットがあります。
 また、「地域を活性化する」などの目的が明快なら、行政から助成金を得られることも多いです。

⑦宣伝活動
 上映事務局でチラシ、ポスターをご用意しております。こちらで用意しているものは有料となりますが、ご自身でチラシやポスターを制作するためのデータは無料でご利用いただけます。
 お店・施設へのチラシやポスターの設置、地域の集まりでの告知など、地域密着型の宣伝が、集客には効果的です。FacebookやTwitterなどWeb上での情報発信も、ほとんどの主催者の方が行なっています。

⑧映画上映と交流会
 当日は、皆さんの暮らしや想いを、地域の方々と話し合いながら交流を深めてください。

項目 備考・詳細
上映料(おおまかな目安)
*条件により変動しますので、詳しくはご相談ください
【50人まで】50,000円+消費税=55,000円
【100人まで】70,000円+消費税=77,000円
  101人目から、1人500円(税込)加算(上限あり)
会場使用料 公民館や市民ホールなどを借りる費用
(公共施設の場合、使用目的によって使用料が減免措置になる場合もある)
上映機材費 DVD/ブルーレイ再生機、プロジェクターやスクリーンなどの上映機材、また、アンプやミキサーなど音響装置などのレンタル代(会場に備え付けの場合もある)
送料・手数料等 上映用DVDなどの、発送・返却時の宅配便代、チラシ・ポスターなど送付物の発送料、及び上映料金の振込手数料
宣材料 チラシ、ポスターなどの費用
その他 人件費、その他雑費 など
監督を呼びたい場合 交通費・謝礼など

※上映事務局のプロダクション・エイシアは、映画の貸し出しと宣材の販売のみを行ないます。会場や上映機材は、主催者がそれぞれ準備ください。

【上映会の申し込み・問い合わせは、上映事務局まで】
プロダクション・エイシア
Tel.042-497-6975
info@asia-documentary.com
〒202-0015 東京都西東京市保谷町2-7-13

映画を観た百姓たちからのメッセージ

堀悦雄さん(京都府・丹波ハピー農園)

 現場を知らない食べるだけの人たちに、ものすごく知ってほしい映画です。こんな映画を作ってくれた柴田監督に感謝、感謝、感謝!! ありがとう。ありがとう。

山田正夫さん(千葉県)

 米つくりをやっている私にとっては、感動と励みになりました!
 食に対する考えやこだわり。単なる商業的なものではなく、安全、安心、日本のこれからの食料自給率、百姓が考えてつくり続けて行く姿。
 私も百姓で百笑して、行きます!

田中文夫さん(大阪府・半農半X研究所主任研究員)

 これは見えないものが見えてくる映画である。
 大きな言葉で「農業問題」「食糧安保」などと数字を元にしたテーマを語っていては、「百姓国」が伝えるべき「楽しいこと」は見えてこない。農の現場が語る小さな言葉のひとつひとつが、日本列島の「百姓宣言」になるのだろう。

平間拓也さん(宮城県・ざおうハーブ)

 現場で工夫して食を支える百姓の様子を伝えるドキュメンタリーで、かなりグッと来るものがありました。
 前日いろんな人とビジネスについて議論して刺激を受けたばかりでしたが、僕はどういうビジネスを展開するか?って話より、人としてどういう哲学を持って暮らしていくのか?という話が好きなんだな。
 監督のお話で、百姓という言葉が放送にそぐわないワードとして扱われている、というのを聞いて驚きました。僕にとっては百姓という言葉は憧れの言葉なんだけどなー。知恵や技術を駆使して、謙虚にしぶとく生きている人間というイメージ。いずれそういう人間に近づきたい。

清友健二さん(岡山県・清友園芸)

 この令和の時代に、カメラをもって百姓にぎゅとぎゅと寄っていったのが、この映画だと思う。
 販売実績、取り扱い金額ばかりが、農家の評価の対象になっている世の中。もっと違うものもあるだろう。金が欲しいのは当たり前だが、それ以上の何かを探し求めてきた人びとがいる。百姓はいろいろなことができる人だ。穀類をはじめ、たくさんの野菜や果樹を栽培でき、加工調理、農機の運転、メンテナンスなどなど、学び続けなければいけない。
 ひとり勝ちは許してもらえないし、いつまでも続かないのが自然だ。それゆえ勉強しなければいけないし、いろいろできるようになることが百姓の楽しみだ。
 どんな時代が来ても、どんな気象が来ても、へばりついて生きていくのが百姓だ。成功しているかどうかはわからないが、一所懸命生きている人を見るのは元気が出てくる。
 しのいで、しのいで生きていくのが百姓だ。この映画で、そんな百姓の生きざまを観てほしい。

村上英昭さん(広島県・世羅むらかみ農園)

 映画「百姓の百の声」……感動の一言です。柴田監督をはじめ、この映画の制作に関わられたすべての方に心からお礼を申しあげます。本当にありがとうございました。
 農業を取り巻く社会情勢が確かに厳しく、先行き不透明な要素が多分にありますが、これだけプラスイメージで、しかもしたたかに農業を映し出した映画やテレビを見たことがありません。見終わった後、農業に携わっていることの誇りと自信と希望がふつふつと湧き起こってきました。
 わが農園も祖父、父の代から農業を続けてきた専業農家ですが、時代の波に翻弄されながらも、いつの時代にもいろいろと工夫や農家どうしの助け合いのなかで乗り切ってきたように思います。平成3年の台風19号の時は、ハウスは全壊し、父もかなりショックを受けたようでしたが、なんとか立て直してくれました。
 とにかく今、食と農の距離をできるかぎり縮めていくことが何より必要と考えます。農業の裾野を広げていきたいとの思いから、農業体験農園の運営に関わっています。知り合いの農家と先日情報交換していた時、「よその国は戦争に備えて徴兵制をしいている国も多いが、日本は徴農制にして、国民が一定の時期に必ず農業に携われるような法律がほしいなぁ」という話で盛りあがりました。その受け皿として、農家も必ず一定規模の体験農園を設けて国民の農業体験の受け皿をつくる、というような国の施策があればいいなと思ったりしています。

  『百姓の百の声』全国での上映館情報 

★「百姓の百の声」公式ホームページ
https://www.100sho.info/

百姓学宣言

宇根豊 著

水管理と田まわり、除草と草取りや畦草刈りは何がちがうか。徹底的に、むらの内側=「在所」からの視点に立って、農業「技術」にはない百姓「仕事」の広がりを明らかにする。国の自給率や農業の多面的機能、生物多様性など、農、食、環境をめぐる客観的指標のもつ危うさを鋭くえぐりだしつつ、福岡県での減農薬運動や農家と消費者、子どもが一体となった「田んぼの生きもの調査」など、30年以上の実践を踏まえて、生きもの豊かな田んぼを引き継ぐ道を提言する

愛国心と愛郷心

宇根豊 著

百姓である著者から見れば、愛国心(ナショナリズム)よりふるさと(在所)の田んぼや自然への情愛=愛郷心(パトリオティズム)が先にあり根源的なものだ。五・一五事件に関与した橘孝三郎など、かつての農本主義者たちも思想の出発点は愛郷心だった。しかしそれらが国家主義に取り込まれていったのはなぜか。いまからの時代にまっとうな愛郷心で愛国心の押しつけを相対化することは可能か。そこにふるさととこの国の山河を守る道もある。狭量なナショナリズムに警鐘を鳴らす在野の思想。