現代農業や増刊『季刊地域』のバックナンバー、『農業技術大系』などがインターネット上で見られる「ルーラル電子図書館」。その活用方法を、愛用者に紹介してもらいます――。
広島・森山里美

今日もお疲れ様でした。もうすぐ太陽も沈みそうな時間。さて、頼まれた原稿でも書こうか――。
ところで、代かきはちゃんとできたろうか。15kmほど離れた圃場にいる長男に電話してみる。
「できとるで~。サトちゃんの荒代じっくり植え代あっさりをマネとるけ~ね」との返事。今年は燃料代もかなり上がっているので、何度もやりなおしはタブー。そういって電話を切る。
息子たちは、家ではサトちゃんのDVDで作業をイメージトレーニングして、圃場で確認したいことがあればスマホで「ルーラル電子図書館」を検索。いやー、便利になった。
苦労して勉強した時代
ここは広島県府中市、その昔に備後国の国府が置かれた由緒ある町。でも農業をするには山間地が多く、1枚で10aある圃場はまれ。小さな田んぼと家庭菜園がほとんどという地域だ。
今から約35年前、私はコンニャクの原料を精粉販売する会社に13年勤めて、体を壊して人生終わりかというところまで追い込まれてしまった。
あの治療がいい、あの食材がいいと四苦八苦していた時、仕事でお世話になったコンニャク屋さんから、コンニャクイモを有機栽培できないかと依頼を受けた。体にいい食べ物とはなにか一緒に考えてみないか、有機栽培を勉強しようや、と誘われたのだ。
「やってみましょう」と返事をしたものの、何から始めればいいのか、どこに相談すればよいのか、さっぱりわからない。農協や市役所に行くも、「有機農業をしたい」「農地はありません」では話にならなかった。
そんなこんなで1年間、土いじりもできず。『現代農業』をはじめいろんな本を読み、農家を訪問しているうちに、一冊の本で岡田茂吉の自然農法に出会った。自然農法国際開発研究センターで教わりながら農地を探し……、と書いていると長くなりそうなのでこの辺で。まあ、いろいろ苦労して勉強して、農家になったということだ。
ところが息子たちは、こんな苦労は知るはずもない。「ルーラル電子図書館」で「新規就農者」とか「有機農業」と検索するだけで、いろんな情報がサクッと出てくる。農作業はなんと、動画で学べてしまう。苦労した私の数年間はいったいなんだったのか。いや、ゆっくり学んだ分いろんな出会いもあったわけだが、今と比べると、農業を学ぶのに時間も費用もかかりすぎた。

『大系』も『総覧』も面白い
費用といえば、『農業技術大系 土肥編』も持っている。高価だし重いしコンニャクの記事は少ないが、買って読んだ。加除式なので、年に1回新しい記事が届き、読んでから本に綴じる。その作業も、新しい知恵がまた一つ増えると思えば楽しかった。古い記事をめくれば、昭和初めの農業から、今につながる考え方や技術を学べる。
『現代農業』も同じだ。コンニャクの記事はめったに載らないが、一見興味なさそうなテーマや見出しがヒントになったりする。全国の農家の工夫を「みんな考えてるね~」なんて眺めながら、ふと「このネタ使えるかも」とじっくり読み直す。知恵がまた増えたと思うと、やっぱり嬉しい。見知らぬ農家の言葉に共感することもある。
古いバックナンバーも面白い。広告一つ見ても、農業とその時代の関係が見えてくる。農薬や農機具メーカーの名前でさえ、農業の歴史なのだ。
売れ残った野菜が何とかならないか、加工方法はないかと調べる。これには同じく加除式の『食品加工総覧』が役に立った。
病害虫の診断や防除に関する総覧は、CD―ROMを買って使った。毎年の追録はパソコンにCDを入れて設定しなおすのが面倒で、時間もかかる。しかし、病原菌はカビか細菌か、どんな対策が有効か、病気と作物との関係など、じっくり学ぶことができた。
大系や総覧、『現代農業』の記事は何年かすると、詳しく掘り下げられて単行本として出版される。それを買って読む、講演会へ行く、読者の集いに行ってみる。いつも楽しい出会いがあり、そんな時間をどのくらい繰り返しただろう。本に出てくる農家たちにも会えたし、多くを教わった。
「検索」にはかなわない
学んだことを生かして、私は農家を続けてきた。食品残渣の堆肥化に取り組む地元リサイクル業者のお手伝いもできたし、スーパーから相談され産直コーナーの立ち上げもお手伝いできた。
しかし、課題を前にした時、解決方法をイチから本で調べるのは時間がかかる。「ルーラルで検索」には、絶対にかなわないのだ。
今、息子たちは病害虫をスマホで写真に撮って、その場でルーラルを検索して見比べながら診断している。ルーラルでは、病害虫を特定するだけでなく、『農業技術大系』から産地農家の対策を調べたり、『現代農業』のバックナンバーから有機農法的な解決方法を探ったりすることもできる。
私の出番が来るのは、何か資材を使うことにした場合。その詳しい使用方法をメーカーに電話して聞く係である。
やばい!オヤジの出番が少ない!?
30年ほどの私の経験と知識では、『現代農業』100年の知恵に勝てないのだ。私は私なりに時間をかけ有機農業と向き合い、いろんな本や農家から知恵を授かって今日までやってきた。
しかし、西日本豪雨災害でコンニャクの種イモを流され、土地も流され。次はコロナで加工用ハクサイが低迷。そして目下、円安やウクライナ戦争によって肥料代などは高騰必至。かつて経験のない事態に、私は答えを持ち合わせてはいない。
そこで、ここは「ルーラル電子図書館」に頼りたい。有機農家は今までの経験に加えて、われらがバイブル『現代農業』100年の知恵をサッと引き出して、消費者と笑顔でつながろう。
インスタにLINEにZOOM。コロナのおかげで少しは覚えた。消費者とつながるチャンスは広がっているのだ。そして農文協が時代に合ったいい企画を出してくれることを信じて、もう一踏ん張り頑張ろう。
*月刊『現代農業』2022年7月号(原題:やばい! オヤジの出番が少なくなった!?)より。情報は掲載時のものです。